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痛車はこうしてできている――最新デジタル印刷と職人技のスーパーコラボあなたの知らないプリンタの世界(1/2 ページ)

» 2016年02月25日 11時00分 公開

 「痛車」をご存知でしょうか。車体全体にキャラクターイラストをデコレーションした車のことです。デコトラや車両広告とは違い、アニメやゲームに熱い思いを持ったファンの表現活動とも言えます。

photo 「第19回名古屋モーターショー2015」では「萌え〜ターショー」として痛車展示が(著者撮影)

 実は、痛車のビジュアルはペイントや塗装ではなく、インクジェットを中心とするデジタル印刷のステッカーが貼りつけられています。曲線的な車体を美しくデコレーションするために、最新技術と職人技が生かされているのです。

 駅のホーム、街中の看板、カフェのマグカップ、スーパーのビニール袋――毎日目にする広告やデザインは、あなたの視界に入るまでに必ず「印刷」の工程があります。いつもの毎日をちょっと面白くする“あなたの知らないプリンタの世界”をご案内します。

デジタル印刷とは?

 そもそも「デジタル印刷」とはなんでしょうか。従来の印刷方式はさまざまなタイプの版(はん)にインクをつけて紙に印刷していました。小学校の図工の授業で経験した「版画」「消しゴム版」などの原理もその中の1つです。印刷スピードがとても速いので、大量生産に向いていますが、版の製作や印刷の準備に費用と時間がかかります。

 一方で、デジタル印刷はその「版」がいりません。なので、少ない数量で多彩な種類の印刷できるようになりました。 カスタマイズ(別注品)、ローカライズ(ご当地物)、パーソナライズ(自分用)などの商品づくりが簡単にできるようになったのです。

 代表的なデジタル印刷方式はインクジェットやレーザー転写(要はコピー)、液体トナーのデジタルオフセット、などがあります。

進化する痛車――手描きからプリントへ

 さて、「痛車」の話に戻りましょう。約40年前、1970年代にデコトラ(デコレーショントラック)が流行り、映画の題材にもなるブームとなりました。東映のトラック野郎シリーズですね。この時代の映画、個人的にも大好きなのですが、当時はもちろん車体への手描きペイントです。

 その後「貼る塗料」とも言われる色付きのステッカー素材「マーキングフィルム」の切り文字の貼り分けが台頭します。初期はカッターを巧みにさばく「手切り」、1990年代頃からカッティングマシンを使って機械でステッカー素材を切る方法が主流になっていきました。2016年の現在は、インクジェット印刷とカッティングの併用が世界的に広まっています。

 「インクジェット」はご家庭でも使われているプリンタでもおなじみですね。その名の通り、細かいインクを何色も混ぜながらジェット(噴射、スプレー)します。さまざまな紙や素材にインクを定着させ、にじまず流れず、きれいに仕上げなくてはいけません。カーラッピング向け印刷に使われるインクやステッカー素材は、柔軟かつ日差しにも強いものが選ばれます。

海外はド派手に、アートに、面白く

 カーラッピングは屋外広告として利用されるのが一般的です。アメリカのカーラッピング市場規模は日本の約100倍で、12年から15年で200%成長しているとも言われています。海外ではオリジナルのデザインが施された社有車率もとても高く、街を歩いていてもかなり目立つ印象です。

 社有車以外でもバス広告ラッピングなど、どれもデザインを贅沢に、そしてダイナミックに配置しています。フロント(前面)、サイド(側面)、リア(背面)など複数の面を1つの大きな立体画面として生かしたもの、タイヤや自動ドアの動きや形を利用したものなど、アート作品のように美しく、面白いものがたくさんあります。

 先月、ドイツのフランクフルトで行われたインテリアの展示会。その駐車場で見かけたインテリアメーカーのラッピング営業車がこちらです。側面に何種類ものカーテンのデザインがあしらわれてとても印象的でした。

photo 「Heimtextil 2015」(フランクフルト)で著者撮影

 イメージキャラクターの俳優なのか社長なのか、おじさんの写真が大きくレイアウトされたピザ屋さんの車も。電話番号とURLもしっかりと記載されていました。かなりの迫力ですね。自社をアピールする意味もあり、配色も含めてかなり派手なものも多いのです。

 日本でも石原都東京知事(当時)が都バスの車体広告を解禁した2000年前後からラッピング車は増えていきました。海外と違って法律や条例が厳しい日本ですが、日本市場の伸び率はアメリカを凌ぎ、12年から15年の3年で2.5倍以上とも言われています。プランナーやデザイナーのみなさんの力でこれからますます面白い事例が増えていくかもしれません。

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