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「体験型展示はもう古い」――日本科学未来館、開館以来初の大幅リニューアルがすごかった

» 2016年04月20日 16時36分 公開
[太田智美ITmedia]

 日本科学未来館は、開館以来初めてという常設展の大幅リニューアルを実施し、4月20日に公開した。リニューアルで大きく変更した点は「展示」の在り方。これまで情報展示や体験型が主流だった「展示会」そのもののコンセプトを見直し、「経験・思考型の展示」に切り替えたという。どのような常設展示が行われるのか、内覧会の様子をレポートする。


日本科学未来館リニューアル

 「体験型展示はもう古い」――リニューアルで特に重視したのは「来場者が未来の行動に移すための“促し”を、いかに設計するか」ということ。各展示が「問い→考え→行動に移す」という導線の上で設置されている。

 今回、新たに8つのエリアを追加。実演やトークショーなどを行う「コ・スタジオ」やドーム型シアターのほか、6つの展示を新設している。中でも、同館の館長を務める宇宙飛行士の毛利衛さんが注目するのは「100億人でサバイバル」の展示だ。

 同エリアのテーマは、天災やテロなど地球上のさまざまな危機から身を守り、100億人で生きるにはどうしたらいいのかを考えること。実際に起きた災害などの映像を見たり、“ピタゴラ装置”などを用い、自分たちが置かれている命の状況を考える機会が得られる。

 この展示は、東日本大震災を機に考えられたものだという。「私はNASAで『危機感』というものを徹底的に叩き込まれた。それは、自分がどういう状況にあるのか、これからどうなっていくのか。先へ先へ考えること」(毛利さん)。


日本科学未来館リニューアル 「100億人でサバイバル」展示

日本科学未来館リニューアル 壁に開けられた穴をのぞくと、リアルな映像が流れている

銀の玉が二酸化炭素、金の玉が熱。銀の玉(二酸化炭素)が多く排出されると金の玉(熱)が溜まり、台風を表す赤い玉(台風)の動きが早くなる

日本科学未来館リニューアル アクティビティ・スペース「コ・スタジオ」

 このほか、未来の地球の理想像から今取り組むべきことを考える展示「未来逆算思考」や、日本科学未来館のシンボルにもなっている“地球ディスプレイ”「ジオ・コスモス」をプログラムを組んで操作できる「ジオ・プリズム」、ジオ・コスモスのコントロールルーム「ジオ・コックピット」、ノーベル賞受賞者たちのメッセージを展示する「ノーベルQ」、宇宙開発や海洋探査など現在進行中の研究を紹介する「フロンティアラボ」を常設展として新設している。

 筆者のおすすめは、ドームシアターで上映される新コンテンツ「9次元からきた男」。これは、記憶に残る映像体験を目指して「トラウマ体験をさせる」ことをテーマに作られた3Dドーム映像作品。自然界に存在する全ての力を統一的に記述する「万物の理論」への試みをテーマに、現在有力視されている仮説「超弦理論」を親しみやすく紹介している。

 演出を手掛けるのは、映画「呪怨」「魔女の宅急便(実写版)」などで知られる映画監督・清水崇さん。他の展示内容との関連性を持たせ、映像の見せ方にもこだわった作品に仕上げている。


日本科学未来館リニューアル ドームシアターで上映される新コンテンツ「9次元からきた男」


 他に興味深かったのは、iPS細胞に関する進行中の研究や、新しい細胞との付き合い方について考える展示「細胞たち研究開発中」と、ロボットやVRを用いた手術体験ができる展示「ともに進める医療」。ロボット手術体験では、目の前にいない患者の腫瘍(しゅよう)をディスプレイ越しに見ながら、手元のコントローラーでロボットを操作して手術する――といった体験ができる。


日本科学未来館リニューアル 「細胞」について考える「細胞たち研究開発中」

日本科学未来館リニューアル ロボット手術体験

日本科学未来館リニューアル 映像に映った腫瘍を時間内に取り除けたら手術成功

日本科学未来館リニューアル VR手術体験

「ロボットと暮らし」で実演するASIMO

 「新しくなった日本科学未来館が、科学技術外交の場・科学コミュニケーションの場になればいい」(毛利さん)

太田智美

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