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NASAの火星有人探査、2030年代に実現へ そのカギは……「VR訓練」

» 2016年08月09日 17時20分 公開
[山口恵祐ITmedia]

 アメリカ航空宇宙局(NASA)は、人類初の試みとして火星への有人探査飛行を2030年代に計画している。その中で、宇宙飛行士のVR(Virtual Reality)訓練が重要な役割を担うという。米NVIDIAがブログで紹介している。

photo 国際宇宙ステーション「デスティニー」のモジュール内部をバーチャルで再現したもの

 NASAが宇宙飛行士の訓練に活用を見込むのは「ハイブリッド・リアリティー・システム」(Hybrid Reality System)と呼ばれるシステムだ。

 このシステムでは、VR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)製品の「HTC Vive」が備える、部屋の空間サイズを認識してVR空間に反映する「ルームスケールトラッキング機能」と実物大の模型を組み合わせて活用。従来のフィールドテストと比べて低コストで、高い没入感と臨場感を備えた訓練が可能になるという。これは、現実世界にVRを複合する「Mixed Reality」(MR=複合現実)と呼ばれるものに近い。

photo 国際宇宙ステーション「トランクウィリティー」のモジュール内部をバーチャルで再現したもの
photo 国際宇宙ステーションの「キューポラ」の窓から外の光景をのぞいたところ
photo エイムズ研究センターで1980年代に開発されたヘッドセットとデータグローブ

 NASAジョンソン宇宙センターのマシュー・ノイエスさんは、NVIDIAのブログ記事の中で「ハイブリッド・リアリティー・システムによって視覚的に宇宙のあらゆる場所へと瞬時に移動でき、まるでその場にいるかのように感じられる」と解説している。

 記事によると、NASAが初めて宇宙飛行士の訓練を目的としたVRシステムを開発したのは1980年代半ばのことだという。ここで培った技術が、昨今盛り上がりを見せるVR製品によってさらに発展する可能性がありそうだ。

photo NASAが以前利用していたHMD。現在のコンシューマー製品に似ている

 NASAのハイブリッド・リアリティー・システムを用いて宇宙での活動を再現するには、視覚情報の他に「無重力環境の再現」も必要になる。そこで活躍するのが、研究中のロボットクレーンシステム「Active Response Gravity Offload System」(ARGOS)だ。このシステムでは、体を吊り上げることで無重力状態に近い感覚を再現する。

 これらのシステムを組み合わせれば、地球とは異なる不安定な地面を移動したり、小惑星で鉱物試料を採取するためにドリルで岩に穴を開けたり、さらには月面車を走らせたり――といった、宇宙船外活動のさまざまな物理的感覚も再現できるようになるという。

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 NASAの有人火星探査が行わるまでは長い道のりだが、VRやMRなどのテクノロジーを活用して進歩しているようだ。人類は閉じられた仮想空間に入りながら、遠く離れた火星との距離を詰めている。

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