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2016年10月12日 17時15分 UPDATE

太田智美がなんかやる:参加者は“変態” 2足歩行ロボットの頂点を決める格闘競技大会「ROBO-ONE」技術者が受継ぐ文化

2足歩行ロボットの格闘競技大会「ROBO-ONE」が開催された。今回第29回目を迎える歴史あるロボットの大会には、どのような人が参加しているのか。

[太田智美,ITmedia]

 「立ち上がれ、てくてくぴょぴょーんきゅいーん!」

 2足歩行ロボットの格闘競技大会「ROBO-ONE」「ROBO-ONE Light」が、神奈川県立青少年センターで9月に開催された。筆者はそれぞれの大会にエントリー。今回は2日目に開催された「ROBO-ONE」の戦いをレポートする。

 ROBO-ONEは“2足歩行ロボットの頂点”を決める大会で、予選を勝ち抜いた機体だけが本戦の格闘バトルに進めるというもの。2002年にスタートし、29回目となる今大会では、144台のエントリーがあった。

2足歩行ロボットの頂点を目指す「ROBO-ONE」 参加者は“変態”

 技術者界隈で“変態”は褒め言葉だが、「ROBO-ONE」の参加者はまさにこれに該当する。この分野は「ホビーロボット」と呼ばれ、参加者のほとんどが本業とは全く関係なく自費で夜な夜なロボットを作っているのである。


2足歩行ロボットの格闘競技大会「ROBO-ONE」

 自費といっても、2足歩行ロボットは数万円でできるものではない。1つの機体を作るのに、少なくとも10万円かかる。ちなみに、筆者の機体は12万円。1つのサーボモーターが1万円と考えると、それくらいが“普通”の額なのだ。これはまだ未体験領域なのだが、聞く話によると優勝候補の機体は1つ4万円のサーボを使っていることもあるのだとか……。

 それだけではない。ロボットは一度作って終わりではないのだ。自分で組み立てた機体を何度も何度もバラして改良してはまた組み立てる……気の遠くなるような作業の連続だ。

 参加者の割合は、学生半分、社会人半分といったところだろうか。学生チームは先輩たちから受け継いだ“秘伝のタレ”(機体とテクニック)をアップデートし、社会人もまたそれに負けないように資産と時間をつぎ込む。

 そして実は、この競技は危険と隣り合わせでもある。バッテリーの使い方1つで爆発の危険性があるのだ。実際に今回の競技中、機体から煙が上がるハプニングもあった。安全のために知識と対策が必要不可欠な、“大人の遊び”なのである。

 そんな大会とは知らずにふらっと足を突っ込んだ筆者も、自費で夜な夜なロボットを組み立てたひとり。「OECU杯 ヒト型レスキューロボットコンテスト 2015」でOECU杯賞に輝いたロボット「ゼムネス」を作った二名川師匠にアドバイスを受け、ロボット制作のため1カ月間ネジを回し続けた。



「2足歩行」のこだわりと厳しい審査

 こうして作った自分たちの機体で、2足歩行ロボットの格闘競技は行われる。予選の種目はかけっこ。4.5メートルの板にツルツルのシートや分厚いマットが置かれており、1分間の制限時間内にロボットがゴールすればクリアだ。途中で落ちてしまったり、制限時間内にゴールに辿り着かなければそこで終了となる。

 この予選はロボットがきちんと2足歩行できるかどうかの審査で、ゴールした機体のうちタイムがいい順に本戦出場が決定する。約半分の機体しか本戦に進めないハードな戦いだ。


2足歩行ロボットの格闘競技大会「ROBO-ONE」 筆者のロボット

 筆者のロボットは近藤科学のロボット「KHR-3HV」にトイレットペーパーの装飾を施したもの。頭はトイレットペーパーの芯でできており、背中にはトイレットペーパーの羽を身にまとっている。走ると羽が風になびき、美しい姿を見せる。さらに今回は、前の大会から機体をアップデート。胸に巻いた状態のトイレットペーパーを付け、勝負に挑んだ。

 ところが、試合直前にハプニング発生。足の取りつけ方向を90度間違え、1歩も歩けない状態に。試合が始まるまで、あと20分。

 この機体の足はナットで留まっているため、付け替えるには非常に細かい作業が必要になる。もともと特別な道具なしで取り外しするのが大変な足だが、慌てていると手は震えるし部品を落としてしまうしで、パニック状態に陥る。残り2分!


2足歩行ロボットの格闘競技大会「ROBO-ONE」

 震える手を落ちつけながら、試合1分前にようやく取り付けが完了。息を付いている暇はない。ゆけ、てくてくぴょぴょーんきゅいーん!(←ロボットの名前)。



 ――夏が……終わった。ロボットは何度も何度もコケながら、それでも立ち上がり、前を向いて歩いた。それでも、ゴールは間に合わなかった。

 てくてくぴょぴょーんきゅいーん!は予選敗退。優勝したのは、大阪産業大学の「キング・プニ」というロボットだった。優勝機体はその日のヒーローであり、その制作者の周りには多くの人が集まる。このロボットはどうやって作られ、どういう構造になっていて、どんな動きをするのか……ライバルたちがその技術を盗もうと集まる。その技術を、優勝者は惜しみもなく周りの技術者たちに教える。優勝者もまた、そうしてここまでのし上がってきたひとりなのだ。そんな文化が、このコミュニティーには存在する。




 ROBO-ONEが初めて開催されたころは、ロボットが動いたら拍手、1歩歩いたら大喝采だったという。それから数年、歩いて当たり前、投げ技を決めて初めて会場から大歓声が響く時代になった――関係者らは感嘆深くそう語る。

太田智美

筆者プロフィール

プロフール画像

 小学3年生より国立音楽大学附属小学校に編入。小・中・高とピアノを専攻し、大学では音楽学と音楽教育(教員免許取得)を専攻し卒業。その後、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に入学。人と人とのコミュニケーションで発生するイベントに対して偶然性の音楽を生成するアルゴリズム「おところりん」を生み出し修了した。

 大学院を修了後、2011年にアイティメディアに入社。営業配属を経て、2012年より@IT統括部に所属し、技術者コミュニティ支援やイベント運営・記事執筆などに携わり、2014年4月から2016年3月までねとらぼ編集部に所属。2016年4月よりITmedia ニュースに配属。プライベートでは約1年半、ロボット「Pepper」と生活を共にし、ロボットパートナーとして活動している。2016年4月21日にヒトとロボットの音楽ユニット「mirai capsule」を結成。

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