日本電気(NEC)は12月19日、がん治療用ワクチンの開発と実用化を推進する新会社を設立し、創薬事業に本格参入すると発表した。同社の人工知能(AI)技術などを活用し、5年以内に副作用の少ない新薬の実用化を目指す。
新会社名は「サイトリミック」。AI技術を使って発見したがん治療用ワクチン候補物質の実験や、製薬会社と協力した事業化の検討などを行う。資本金は3億6150万円。出資比率はNECが39.9%で、残りの60.1%はファストトラックイニシアティブ、SMBCベンチャーキャピタル、NECキャピタルソリューションが出資する。
NECが目指すのは「免疫治療」というがん治療法だ。これは、9個程度のアミノ酸がつながった「治療用ペプチドワクチン」を体内に注射し、がん細胞を攻撃する免疫細胞「キラーリンパ球」を活性化させるというもの。手術や抗がん剤投与、放射線治療に比べて副作用が少なく“第4の治療”とも呼ばれている。
だが、治療用ペプチドワクチンを開発・実用化するには、約5000億通りのアミノ酸配列の中から免疫を活性化させる組み合わせを発見したり、人それぞれ異なる白血球型に汎用的に適合するペプチドを実験で検証する必要があったりと、膨大な時間とコストがかかる課題があった。
そこでNECは2001年、実験と機械学習の組み合わせで新薬候補物質を発見する独自AI技術「免疫機能予測技術」を開発。少ない実験結果から、高精度かつ短期間、低コストで新薬候補を予測できるようにしたという。
さらに14年には山口大学、高知大学との共同研究を開始し、肝細胞がん、食道がんなどの治療効果が期待でき、日本人の約85%に適合するペプチドを発見したという。新会社のサイトリミックでは、このペプチドをベースに新薬の実用化を目指す。
NECの清水隆明 執行役員常務兼CMOは「少ない実験数で候補を絞る点では、NECのAIが最も優れた結果が出せると考えている」と説明する。サイトリミックの土肥俊社長は「国内では数社がワクチン開発を進めているが、85%という適合性の高さが競争優位になると考えている」と話している。
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