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梯郁太郎氏はなぜAppleから距離を置いたのか立ちどまるよふりむくよ(4/5 ページ)

» 2017年04月04日 06時11分 公開
[松尾公也ITmedia]

iPad版GarageBand批判の真意

 そして2011年3月10日、iPad版GarageBandがわずか600円で発売される(その後無料化)。

 インタビューが行われたのはおそらくその年の11月か12月。

 iPad版GarageBandには結構批判的な意見だ。「プロの使用に耐えられないものは、楽器と言っちゃいかん」。GarageBandは「シーケンサという意味ではいいけれど、誰でもすぐに演奏できてしまうものは、楽器としての面白さがないだろう」「練習に練習を重ねることで演奏が上達していく。そんなものこそが本来の楽器なんだというのが僕のポリシーなんですよ(笑)」

 いやー、これには少し反論したいところ。iPhoneの3D Touchを使いビブラートを深くしたり、ロータリースピーカーの回転速度上げたり、12.9インチiPad Proの広い画面を駆使して通常の楽器でできないようなフレーズを弾くとか、GarageBandでも練習を重ねてできることはあるんですよ、「誰でもできる」以上の部分もありますよと主張したい。iPad版じゃないけど、電気グルーヴはMac版GarageBandでニューアルバムの96%を作り上げたというし。

 MIDIはBluetoohでワイヤレスでiPhone、iPadに届き、ワイヤレスキーボードで演奏できる。ローランド純正のSoundCanvasアプリはフル機能でiOSに対応。GarageBandは今や32トラック、ピッチ補正機能、高性能なモーフィングシンセまで付属しもはや無料DAWの域を超えている。iPhone版GarageBandは最小かつ十分なパワーを持つDTMマシンでもあるのだ。

 でも、このインタビューが行われたのは2011年末、今から6年近く前の梯氏の最初のバージョンのiPad GarageBandに対する見解なのだ。反論しても意味がない。

 次に埋め込んであるのは、2011年にiPad版GarageBand内蔵音源でぼくが演奏したビートルズ曲「All My Loving」だ。

 そしてポイントはそこではない。梯氏が語ったのは自ら目指す電子楽器の姿であり、ローランドと袂を分かち、新たに創業したATVという梯氏にとって3番目の「メーカー」で形にしたかったものだ。

 昨年ATVが発表したaFrameという新発想の打楽器は練習を重ねることで上達し、プロに耐えられる面白さがある本物の楽器なのだろう。「コモディティではなく」「ルーツがある」楽器。それはこの動画を見ればわかる。

 ACE TONEのリズムボックスから始まり、ローランドではドクター・リズムことDR-55、TR-808、V-Drums、そしてATVではaDrumとaFrameと、よりプロフェッショナル、よりリアルでプレーヤーの技術に反応する、そういう楽器を作ってきた。

photo TR-808

 信念を貫き通したのだ、この人は。

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