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「すごすぎる」――地方のパン屋が“AIレジ”で超絶進化 足かけ10年、たった20人の開発会社の苦労の物語(2/5 ページ)

» 2017年05月15日 12時11分 公開
[本宮学ITmedia]

「パンは全部形が違う」 想像よりも高いハードル

 包装されていない焼きたての手づくりパンには、バーコードやRFIDを付けられない。自動で分類するには見た目などから特徴を読み取るしかないが、「画像認識については未経験だった」(原さん)。

 そこで同社は、画像認識処理のノウハウを持つ兵庫県立大学の研究室と共同研究をスタート。しかし現実は菓子パンのように甘くはなかった。

 「開発を始めてすぐ、いくつものハードルにぶち当たった。1つ目は、同じような見た目のパンでも別の種類のことがあること。そしてもう1つは、パンごとに個体差があることです。焼き加減もまちまちだし、同じ種類のパンでも形が微妙に違う。人が作るパンは毎回ちょっとずつ変わるので、いかに認識精度を高めるかが課題だった」

phoro 見た目が似ているパン(出典:BakeryScan公式サイト)

 最初に考えたのは、「お手本データ」をいくつも登録して網羅性の高いマスターデータを作り、会計時にパンと照合する仕組みだ。だが、採用には至らなかった。「お手本データを覚えさせるのに時間がかかるし、データが増えると会計時の読み取りもどんどん遅くなってしまう」からだ。

 そこで注目したのが、パンの種類ごとに独特の「特徴量」を見出し、スコア化するという手法だ。

 例えば、ハムの乗り具合やチーズの焼き加減など、あるパンならではの特徴を覚えさせていく。事前準備は1種類のパンにつき5〜6個サンプリングするだけでよく、初期学習は2分ほどで完了。その後、読み込ませれば読み込ませるほど機械学習によって精度が高まっていく。

phoro 同じパンでも見た目が違う(出典:BakeryScan公式サイト)

 「やっていることはディープラーニングと似ているが、どの特徴を使うかを前もって定義しているので、それよりも動作が軽い。BakeryScanと同じことをディープラーニングで試したところ、パンの識別精度はだいたい同程度までいったが、1つのパンを登録するまでに、かなりのハイスペックPCを使っても一晩かかる。BakeryScanはあえてシンプルな仕組み。朝一番で新商品が出ても、2分ほどあればアルバイトの店員さんが初期学習を行える」

 そして、もう1つの課題だった「店の照明や天候ごとに光の状況が異なり、正しくパンの輪郭(領域)を抽出できないこと」には、スキャナ下部から光を当てて影を消すことなどで対応。いざ製品化にこぎつけてひと安心……と思いきや、販売後に次の大きな壁にぶつかった。

「お客さまが怒っている」

 それは、BakeryScanの販売を始めて1年ほど経ったあるときだった。導入した店舗から「お客さまが怒ってしまった」とクレームを受けたのだ。

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