「SaaS」といえば「Software as a Service」を指すのが一般的だが、英国・ロンドン、エストニア・タリン、フランス・パリでは異なる意味を持つ「SaaS」が注目を集めている。
その名も「Sorry as a Service」。現在ロンドンに本社を置く、エストニア発のスタートアップだ。“おわび”をサービスにしようという発想のビジネス。一体どのようなサービスなのか詳しくみていきたい。
日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。
ソーシャルメディア時代となったいま、消費者がプロダクトやサービスに不満を持ったとき、その不満をソーシャルメディア上で発信する傾向が強くなっている。企業側からすると、炎上などで信頼をあっという間に失ってしまうリスクが高まっている状況といえる。顧客との信頼関係の構築が、これまで以上に重要になっている時代なのだ。
Sorry as a Serviceは、顧客との信頼構築を構築したい企業に対して、顧客へのおわびをパーソナライズするプラットフォームを提供している。
プロダクトやサービスの提供において、商品の発送が遅れたり、不良品を販売してしまったりと、さまざまな要因が絡み合うことで何らかの不手際が発生してしまうことは多々ある。Sorry as a Serviceのプラットフォームを使えば、不手際によって不満を抱いた顧客に対して、クッキー、花、香水などと共におわび文の手書きカードを迅速に送れる。顧客の好みにあった小物やクッキーに名前を入れるなどして、おわびをパーソナライズできるのだ。
手書きのおわびカードとおわびの品を受け取った顧客の多くは、ポジティブな反応をソーシャルメディアに投稿する傾向があり、企業は炎上リスクを下げることができる。
不手際が生じた場合、「現金」が解決手段として利用されることもあるが、顧客と長く続く関係を構築するなら、顧客の感情に訴えるおわびをする必要があると、Sorry as a ServiceのCEO、マーティン・マクグローイン氏は考えている。
さまざまな産業において競争が激化する中で、顧客との長期関係の構築は、企業の規模に関わらず喫緊の課題となっている。長期的に関係を構築するために、カスタマーサービスを強化するのも1つの手段だ。
英国通信大手BT(British Telecom)は、まれにサービスで不手際が生じることを認識し、不手際が生じた際の対策を強化するために、カスタマーサービスへの投資を進めてきた。その一環で、Sorry as a Serviceプラットフォームを導入し、心のこもったおわびで顧客との関係を醸成しているという。
英国のブティック専門Eコマース・スタートアップ「Trouva」も、Sorry as a Serviceを利用する企業だ。同社は、在庫切れや商品到着遅延が発生した場合、おわびの品として顧客の名前入りクッキーとおわびカードを送付している。
Sorry as a Serviceプラットフォームの利用料は、Liteが月額149ポンド(約2万2000円)、Proが249ポンド(約3万7000円)。おわびの品は地域・提携パートナーによって異なる。現時点で英国と欧州地域での利用が想定されており、約100種類のおわびの品を選べる。おわびの品は、ティーバッグ、クッキー、チョコレート、ケーキなどの手軽なものから、ワイン、シャンパン、ウイスキーなど高価なものまでさまざまだ。また、戦車操縦体験やウイスキー試飲体験などの少し変わったギフトも用意されている。
Sorry as a Serviceは、今後、不手際が生じた際の「おわび」だけでなく、初回購入者に「感謝」を表すことでも関係構築を模索していく計画だ。Eコマース企業は、新規顧客を開拓するためにソーシャルメディアマーケティングに多大な労力とコストをかけていることが多いが、その新規顧客がリピーターになる割合は、それほど高くないといわれている。初回購入者に手書き感謝カードや名前入りクッキーを送ることで、ブランドロイヤルティーを高め、新規顧客をリピーターに変身させることができるかもしれない。
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