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「電子記録債権」参入の異色ベンチャー「Tranzax」 赤字脱出なるか「NOKIZAL」決算ピックアップ

» 2017年11月08日 18時30分 公開
[NOKIZALITmedia]

 電子記録債権を活用したサービスを手掛けるTranzax(東京都港区)が11月7日、官報に掲載した決算公告(16年7月〜17年6月)によれば、売上高は1900万円(前年同期は2500万円)、経常損失は4億円の赤字(同2億3600万円の赤字)、累積の利益や損失の指標となる利益剰余金は10億9000万円の赤字(同6億9000万円の赤字)だった。

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 電子記録債権とは、紙の手形などでやりとりしていた「いつ、誰が、いくら支払う」という約束を、専門機関が管理する電子記録原簿への記録に置き換えることで、作成や保管、登記への裏付けなどのコストを抑える仕組みだ。09年設立のTranzaxは、中小企業が大企業から受け取った売上債権を電子記録債権化して低金利で買い取るファクタリングサービス「サプライチェーンファイナンス」の提供や、同様に電子記録債権化した発注書を担保に融資を受けられる「PO(Purchase Order)ファイナンス」の開発を行っている。

 Tranzaxが特許を取得しているサプライチェーンファイナンスは、信用力の高い大企業とサプライチェーンの関係にある複数の中小企業の売掛金をまとめて電子債権化することで、それらの中小企業には通常よりも低い割引率と短期間での売上現金化を提供。同時に大企業側には金融機関への支払手数料の削減と優良な中小企業の囲い込み、債務の割安での買い戻しの選択肢を提供する。

 POファイナンスは、17年4月に中小企業庁委託事業・次世代企業間データ連携事業「中小企業等の業種の垣根を越えた企業間の電子データ連携に関する実証プロジェクト」に採用され、実証実験が始まった。

photo Tranzaxの公式サイトより

 資金面では、17年7月に電通幻冬舎グループなどから総額10億円を調達。これまでに累計25億円を調達している。

ここがポイント

 今回の決算書を見ると、売上1900万円に対して赤字4億円、累損10億円という通常見かけないような数字を計上しているTranzax。これは09年の創業以来、16年7月に金融庁から電子債権記録機関の指定を受けるまで、日本各地で地方自治体や地域金融機関を巻き込んだ勉強会に注力し、売上がほとんど無かったことが原因です。

 なぜそこまで苦労する必要があったかというと、電子債権記録機関は「特別な法的効果が付与される電子記録を行う」という国のインフラの一面を持つため。銀行や証券といった金融機関の登録や免許よりもハードルが高く、これまでに指定を受けたのは3大メガバンクと全国銀行協会のみでした。これらにベンチャーであるTranzaxが続いたのは画期的と言えます。

 新たに資金調達も果たし、いよいよ企業として「サプライチェーンファイナンス」や「POファイナンス」などのサービスによって成長が期待されるTranzax。しかし電子債権記録機関に指定を受けただけで、課題が全くないわけではなさそうです。例えば、手形決済はバブルピークの90年に約4800兆円を記録した後は大企業の現金決済への切り替えが進み、16年現在では約400兆円まで縮小しています。もともとTranzaxは手形の代替のみを狙っているわけではないようですが、電子債権記録のメリットとして分かりやすいところではあるので、あまり良い条件ではありません。

 さらに懸念されるのは、13年に始まった電子記録債権の普及状況です。16年の請求額は約11兆円と15年の8兆円に比べて40%の伸びを見せているものの、利用者登録数は15年の43万から16年は44.4万とあまり増えていません。「サプライチェーンファイナンス」にしても「POファイナンス」にしても、電子記録債権が広がることが前提のサービス。この問題はよりビジネスチャンスに直結しそうですし、あまり手間取っていると今度はブロックチェーン技術のような新しい波に足をすくわれる可能性もあります。

 ここまではまれに見るスローペースで実績を積んできたTranzaxですが、ここからはスピードが問われる展開になりそうです。

Tranzaxの過去業績、他の企業情報は「NOKIZAL」で確認できます

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《著者紹介》

平野健児。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの「SiteStock」や無料家計簿アプリ「ReceReco」他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業し「NOKIZAL」を運営中。

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