前回の記事で、欧州のDeep Techスタートアップが投資対象としてチャンスがあり、日本企業とも相性がいいと触れた。今回はさらに深掘りし、シリコンバレーと同じくらい力のあるスタートアップが欧州から輩出され、特に日本市場でのビジネスチャンスをうかがうようになった背景にフォーカス。きっかけは金融だった。(全2回)
欧州の政府は1980年代からさまざまな投資施策を行っていた。米国のようにペンションファンドやエンダーメント(大学が持つファンド)も存在していたが、ベンチャーファンドへの投資はリスクが高いとして消極的な態度を示していた。
そこで、市民を巻き込んだ施策を考案。ベンチャー投資商品に投資することで節税につながるというユニークなスキームを設定した。1997年、フランスの経済大臣が制定したミューチュアルファンド「FCPI」が代表例だ。ベンチャー向けファンドに投資した納税者に対し25%の減税率を掲げ、ウェルスタックス(富裕税)も50%まで差し引くことができるというもの。他に、英国「BCTファンド」やベルギー「アルキメデス」がある。
反響は相当なもので、計35の銀行や保険会社がこぞって216ファンドを作った結果、10年間で44億ユーロ(約5811億円)が集まったという。
ただ、パフォーマンスは期待できるものではなかった。1つは、運用していたのがリスクキャピタル(経営危険を負担する役目を負った資本)とは考えが異なる銀行や保険会社の人材ということ。ベンチャーキャピタリストは不在で、シリコンバレーにいるような起業家も皆無。
「01年にフランスに移り、CVC(コーポレートべンチャーキャピタル:事業会社が社外のベンチャー企業等に投資すること)をやっていた頃は、フランスで唯一起業家出身のベンチャーキャピタリストだった」と、Truffle Venture Capitalパートナー、マーク・ビヴェンズ氏は当時を振り返る。
もう1つは、パフォーマンスよりコミッションに重きを置いていたことにある。世間のファンド投資の目的は節税で、ファンド運用人員は投資家等から成果を求められることがなかった。市民への商品説明時にも節税を前面に出し、できるだけ多くの額を集めることに専念していた。
当時のベンチャーファンド運用は、ベンチャーキャピタリストのパフォーマンスが最も引き出されるという、現在は当たり前な成功報酬制度ではなく、通常の給与制度がひかれていたのも納得できる。
ただ、次第にその制度にも陰りが見え始める。08年にリーマンショックが起きたことで、12年頃まで投資額が減少傾向に陥る。他の節税方法も増え、必ずしもベンチャーキャピタルファンドに投資しなくていい状況ができた。結果、法律にも調整が入り、以前ほどの節税対策にもならなくなった。
さらにはこうしたベンチャー資金があふれる環境で成功した起業家や、一部の若いファンドマネジャーが新たな形のベンチャー投資に力を入れるように。ここからパフォーマンスを意識し、現在のベンチャーキャピタルのように成功報酬を得るスキームをつくるファンドや、投資先の成長戦略を意識し始めるファンドが増えてきたのだ。
(後編に続く)
著者:アドライト(企業情報)
イノベーション創造を支援するコンサルティング会社。大手企業や中堅企業のオープンイノベーションをマッチングから事業化まで一気通貫で並走しながらサポート。新規事業開発の支援や国内外スタートアップの育成、主要国立・私立大学との産学連携プロジェクトも豊富。現在、ベンチャー事業創生ファンド設立の準備を進めている。
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