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乳がん見つける“IoTブラジャー” メキシコの19歳青年が開発 日本にも進出か“日本が知らない”海外のIT(1/2 ページ)

» 2018年05月24日 08時06分 公開
[中井千尋ITmedia]

 乳がんは、早期発見できれば治療で完治できるが、発見が遅くなれば乳房の切除や死に至るなど、油断できない病気だ。2015年時点で、世界には240万人の乳がん患者が存在し(米国ワシントン大学研究グループの調査結果)、女性がかかるがんの中で最も多いとされている。

 このような現状に立ち上がったのが、メキシコに住む19歳の男子学生ジュリアン・リオス・カントゥ(Julian Rios Cantu、Twitter:@JulianRiosCantu)さんだ。彼が実用化を目指し開発している画期的なプロダクトとは、乳がん発見ブラジャー「EVA」。

 1週間に1度、1時間着用するだけで乳がんの早期発見につながるという夢のようなブラだという。一体どのようなものなのだろうか。

連載:“日本が知らない”海外のIT

日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。


自覚症状がほとんどない乳がんの初期症状を検出

 EVAには200のがん検出バイオセンサーが組み込まれた2つのパッチが埋め込まれ、初期の乳がんに見られる乳房の体温変化のパターンや皮下組織の柔軟性を検出し、乳がんの早期発見を促すという。


 乳がんは腫瘍が発生する際、その部分に血液が大量に送られることで感触が変化し、体温も上昇するという。EVAのアルゴリズムは、これらの変化に敏感に反応し、同じ状況が継続すれば、乳がんリスクが高いとしてユーザーに病院での診察をアドバイスする。

 乳がんは早い段階で発見し治療すれば約90%の人が治るといわれているが、乳がんの初期症状は本人にとってほとんど自覚がなく、早期発見が難しい。しかし、EVAを定期的に使用すれば、こうした発見が困難な初期症状を素早く見つけてくれるのだ。

乳がん発見ブラジャー 乳がん発見ブラジャー「EVA」。シンプルなデザインで着るのにも抵抗がなさそう

 冒頭でも述べたように、EVAの装着は1週間に1度、1時間のみ。EVAはこの装着時間内でユーザーの乳房のデータを収集。そのデータは、スマートフォンやタブレット端末にあらかじめインストールされたアプリへBluetoothを介して送信され、人工知能(AI)を搭載したアルゴリズムにより乳がんリスクを分析するという。


 今年4月時点で初回の製造分である5000着のEVAが完売したと、ジュリアンさんは発表。今後さらにアルゴリズムに改良を加え、乳がんを検出する高いクオリティーを担保したのち、2019年初めごろに大量生産を始める予定という。

 価格は当初、生産過程などの都合上300ドル(約3万3千円)になると予測されていたが、ジュリアンさんのアイデアに賛同したパートナー企業の協力により、1着120ドル(約1万3千円)にまで下げることができたという。この価格で乳がんが防げるならかなりお得ではないだろうか。

EVA開発のきっかけは母親のつらい実体験

 EVAを開発したのは、ジュリアンさんが創業した、バイオセンサーに特化したスタートアップHigia Technologiesだ。「Higia(Hygieia)」とは、ギリシャ神話に登場する、健康の維持や衛生をつかさどる女神だ。

 ジュリアンさんがEVAを着想したのは、なんと13歳のころ。母親が乳がんにかかったのがきっかけだ。乳がんの早期発見ができなかった彼の母親は、最終的に両乳房を切除することになってしまったのだ。

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