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» 2018年06月13日 06時00分 公開

「出版社との二人三脚、もう出来ない」 個人作家が生き残るには 漫画家・森田崇さんの場合 (2/3)

[村上万純,ITmedia]
ルパン ルパン帝国再誕計画」のサイト

 今はルブランの故郷・フランスにいる現地のルパンファンともコミュニケーションを取り、世界展開も視野に。それに伴い、アニメ化も実現したいという。

 結果的に成功を収めたKDPだが、コミックスの売り上げが販売直後から徐々に落ち込む一方で、月額980円の電子書籍読み放題サービス「Kindle Unlimited」の売り上げは落ちず、収益を支えているという。

 Kindle Unlimitedは読まれたページ数に応じて収益が分配される方式で「ランキング上位にいると売り上げが落ちない。電子書籍ユーザーはこれからどんどん増えるので、KDPで失敗する気がしない」(森田さん)と前向きだ。

 だが、自分の信じる道を見つけるまでに苦労も多かった。

編集者への感謝と不信感 「いろんな人に助けられた」「嫌な思いもたくさんした」

 「大手出版社の編集長と印税交渉をしたら『印税は漫画家が口を出すことではない』と言われて決裂した」という森田さんのツイートが拡散されたのを覚えている人もいるだろう。

 森田さんは「悪い内容ばかりバズってしまう」と苦笑するが「これは印税率が低くて怒ったわけではなく、(交渉の余地もなく)言い値でやれといわれたことに納得できなかった」と説明。「一人一人の編集者は良い人だが、出版社というシステム自体が今の時代に合っていないのでは」と疑問を呈する。

 「今は売れる人とそうでない人の二極化が激しく、落ち着いて長く連載できていた作品を受け入れる土壌がない。出版社と作家の利害関係が変わるのは当たり前で、(出版社と)信頼感のあるパートナーとしての二人三脚はもうできない」(森田さん)

解説 売れる作品と売れない作品の二極化が進む状況という

 デビュー当時を振り返りながら、編集者への感謝と同時に不信感も思い出す。初代の編集担当はモーリス・ルブランの小説も読んでいたミステリーファン。女性人気を意識してルパンの髪色を金髪ではなく黒髪にするなど、編集者のアドバイスが功を奏した例はいくつもあり、「今もそうだが、本当にいろいろな人に助けられてきたことに感謝している」とかみしめる。

 一方で「嫌な思いもたくさんした」。森田さんの作品は原作に忠実なため、ルパンがなかなか出てこなかったり、ルパンの人間的にダメな面を強く押し出したりと、万人受けする痛快な作品とは違う魅力で勝負している。「編集者は読者受けする格好いいルパンを求めていたが、自分が描きたいものとのバランスが難しかった。(売れる作品にしなければいけない)サラリーマンの限界なのかもしれない」(森田さん)

 そして、移籍やKDPでの経験を経て「雑誌や単行本がどれだけ売れないと採算が取れないか」など数字周りを勉強した森田さんは、あることに気付く。「編集者は、部数などの数字周りの話を作家に言わないんですが、そもそも編集長以外は把握してないんですね。ベテランの人でも編集長経験がないと知らなかったりするケースもあり、これは驚きました」

 編集者への感謝。作品をめぐる編集者・作家間のジレンマ。そして、変わらざるを得ない出版社との関係。森田さんの場合、たどりついたのはKDPという道だった。だが、全ての作家にKDPを勧めるわけではない。

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