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» 2018年06月23日 06時00分 公開

“日本が知らない”海外のIT:深刻な“IT人材不足” AIを手軽に体験するサービス 元Apple社員が開発

AIやディープラーニングは一部の専門家のみが扱うもので、素人には手を出しにくい──そんな固定概念を覆すサービスが登場している。

[中井千尋,ITmedia]

 AI(人工知能)にマシンラーニング(機械学習)、ディープラーニング(深層学習)。一般人からすると、これらは専門家たちのみが扱えるとても高度な技術という印象があるだろう。技術の基本的な構造を理解するのはもちろんのこと、プログラミングを学び、コードが書けるようにならないと話にならないのでは、と考えがちだ。

 しかし、米国・シリコンバレー発のスタートアップが開発している、簡単にディープラーニングを体験できるビジュアルツール「Lobe」が、そんな固定概念を覆そうとしている。今後、AI分野に参入したいと考えている企業や人に重宝されるであろうそのツールとは一体どのようなモノなのだろうか。

「ドラッグ&ドロップ」でお手軽ディープラーニング

 2018年初めにローンチされたLobeは、今まで専門的な分野だと思われてきたディープラーニングを一気に身近なモノにする。

 Lobeは、ドラッグ&ドロップするだけで簡単にディープラーニングアルゴリズムを構築できるビジュアルツール。また、構築したアルゴリズムの教育も可能で、エクスポートして開発中のアプリへ組み込むのもスムーズだ。

lobe さまざまな手の形を自動的に判断するテンプレート「Emoji Hands」

 使い方はシンプル。ツールにあるテンプレートの中から構築したいものを選び、あらかじめ用意したトレーニングデータ(認識させたいモノの写真など)をドラッグ&ドロップ。すると、Lobeが自動的にディープラーニングアルゴリズムを構築してくれるという。あとは設定を変更するなどしてカスタマイズしていく。

 構築されたアルゴリズムが学習していく様子はチャート形式でリアルタイムに確認できる。トレーニングが完了すると、AppleのCoreMLやGoogleのTensorFlowなどのオープンソフトウェアライブラリへエクスポートし、アプリに搭載する。

lobe 構築したアルゴリズムが学習していく様子が分かる

 Lobeで構築できるディープラーニングアルゴリズムのテンプレートには、人の顔の表情から同じ表情の絵文字を割り出す「Emoji Face」や、皮膚のアザや色素沈着の画像からガンの可能性があるか判断する「Skin Cancer」、口の動きだけで音声なしに何を話しているのか判断し文字にする「Silent Assistant」など、27種類。今後まだまだ増やす予定だという。

lobe 音源データから演奏されている楽器を判断できる

 現在はクローズドβ版の提供のみ。利用してみたい場合は、公式サイトから申請できる。氏名や連絡先、職業、ディープラーニング構築の経験値、ツールを使ってどんなことがしたいかなど詳細を入力する必要がある。

なぜディープラーニングに着目?

 そもそも、ディープラーニングとは何なのだろうか。

 ディープラーニングは、人間の力を借りずに自動的にデータに含まれる特徴を判断する手法で、マシンラーニングとともにAIの要素技術の1つとされる。マシンラーニングとの違いは、マシンラーニングがデータからある特徴を抽出するのに人間の指示が必要であることに対し、ディープラーニングはそれを自動的に判断してくれるということだ。ディープラーニングはマシンラーニングをさらに発展させた技術といえる。

 このことからも、ディープラーニングが注目されていることが理解できる。そんなディープラーニングに焦点を絞ったサービスがLobeなのだ。

 Lobeは専門家が使用しているような既存のソフトウェアに対抗するものではなく、専門知識がない人でも気軽にこの分野へ参入できるようにすることが目的だという。共同創業者のマイク・マタス(Mike Matas)さんは、「多くの人々がAIのアイデアを持っているが、どうやって始めたらいいのか分からない状態」だと思い、Lobeを着想した。

lobe 創業者の3人。左からアダム・メンゲス(Adam Menges)さん、マイク・マタス(Mike Matas)さん、マークス・ベイシンガー(Markus Beissinger)さん

 16年、マイクさんとその友人でAIエンジニアであるアダム・メンゲスさんとマークス・ベイシンガーさんの3人は、Lobe Artificial Intelligenceを創業し、Lobeの開発に取り掛かった。マイクさんはもともとAppleでUIデザイナーとして働いた経験があり、初期のiPhoneやiPadの開発にも携わっている。その経験を生かし、専門技術であるAIを素人でも扱えるようLobeのUIにもこだわったという。

IT人材不足に危機感 “手軽な体験”が続々

 ドラッグ&ドロップで構築できる最先端テクノロジーはAIだけではない。東京を拠点とするファッションVRショッピングサービスを手掛けるスタートアップPsychic VR Lab(東京都新宿区)は、17年夏に素人でも簡単にVR空間が作れるクリエイティブプラットフォーム「STYLY」をリリースした。

VR ドラッグ&ドロップでVR空間を作る「STYLY」

 STYLYは、無料で使える3Dビューワー「Sketchfab」や、3Dモデルの素材や画像を購入できる「Unity Asset Store」、音声ファイル共有サービス「SoundCloud」、動画サービス「YouTube」などを含む10のプラットフォームから素材をインポートでき、それらをドラッグ&ドロップ操作して自由にVR空間を作成できる。Lobeと同じくコードを書く必要がないので、プログラミングの知識は不要だ。

 このように、AIやVRなど、一見専門家でないと立ち入ることができないと思われている分野において、素人でも参入できる手段が登場している。その背景にあるのは、需要が急上昇しているこれら最先端テクノロジーを扱える人材が世界的に不足していることが考えられるだろう。

 中国IT大手テンセントと求人サイト「BOSS」が共同で発表した「2017グローバル人工知能人材白書」では、世界のAI関連企業が必要としている専門知識を持った人材の数が100万人にも上ると推測している(参考記事)。日本でのAIやIoTなどの人材不足は深刻で、このままでは企業が専門的人材を確保できず、産業が衰えていく可能性もある。

 こういった現状を踏まえると、LobeやSTYLYといった専門的知識がなくても最先端テクノロジーが扱えるサービスは、今後世界的に注目されていくだろう。実際、Lobeのリリース後、Lobe Artificial Intelligenceの元には問い合わせが殺到しているという。今後の展開に期待したい。

執筆:中井千尋

編集:岡徳之(Livit


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