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コラム
» 2018年06月27日 16時15分 公開

WWDC 2018から読む2020年のApple (1/2)

Appleは2020年、ARグラスの登場に備えて種を蒔いているところだ。

[西田宗千佳,ITmedia]

 今年のAppleは、はっきりいえば「アクセルゆっくり」なモードだったと言える。噂では、Appleはソフトウェアの品質向上に重点を置き始めており、その結果、特にiOSへの機能実装について、無理にスピードアップすることを止めたようだ。iOS12やmacOS Mojaveはそうした印象が強く、デベロッパーからも、「今回のOSは、まったく新しいAPIの追加が少ない」というコメントを得ている。要はそういうことなのだろう。

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この記事は、毎週金曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2018年6月22日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額648円・税込)の申し込みはこちらから


photo WWDC 2018

アクセルはゆっくり、でも基盤は「しっかり」

 だが、筆者はこれを悪いとは思っていない。スマートフォンの機能は、これからAI的なものを増やす方向に伸びていくだろう。だとすると、小手先の機能を増やすより、基盤をしっかり整備する方が先だ。よほどの機能でないと、ユーザー側も喜ばなくなっているだろう。そのくらいスマホは成熟している。

 そういう意味で、次のジャンプはAI的な基盤整備が進んだ時、そしてハードウェア的に「今のスマホとは大きく違う流れ」を導入できるようになった時である。

 そういう目線で見ると、AppleがじっくりとAIとARを育てたいと思っており、しかもそれが本気である、ということがわかってくる。

 2019年末もしくは2020年(おそらくは後者だろう)には、スマホの次、もしくは補完プラットフォームとして「スマートグラス」的なものが出てくる可能性が高い。その時には、指の依存度を減らしたUIと、ARそのものの技術が必要になってくる。昨年あたりからその基盤整備の傾向は見えていたが、iOS 12で目指しているのは、まさにそういう世界であるように思える。

AppleのAI戦略に感じる不安

 本当にスマホでAIを活用するのであれば、人と「やりたいこと」の間のインタフェースになるのが必然だ。今の音声アシスタントは、特定の「やりたいこと」を声で実行するだけだが、本当に必要な世界は秘書やおかんの代わりのはず。そのためにはAIが「賢くなる」必要があるのだが、具体的に「賢い」とはどういう状態を指すのか。

 おそらく第1段階は、「その人が繰り返しやることを先読みする」ことだろう。生活の中にはルーチンワークが多い。そのルーチンワークは、スマホやPCの中では「特定のアプリ(サービスで)を立ち上げる」「特定の操作をする」ということだと規定できる。その自動化は、いわゆる「スクリプティング」なのだが、いかにスクリプトを書かずにそれをさせるかがAIの仕事になる。要は「ああ、この一連の操作は前にもやった」をピックアップし、適切な命令で操作させることが重要になるのだ。

 これをやるには、2つのアプローチがある。行動を記録し、解析した上で、位置や時間などを手がかりに繰り返しを見つける方法と、人間に指示させて、それを覚えさせる方法だ。Googleは前者を重視しており、Google Mapsや検索などのサービス面では「OSを問わない」展開をしている。一方、AppleはOS=デバイスの両方をやった。

 この展開にはもう少し解説が必要かと思う。

 Appleは「デバイスを売って儲ける会社」であると同時に、「Appleというブランド」を売る会社である。そのため、現在の判断として、プライベートなデータのAI処理(学習ではなく、判断)はハードウェア内で完結し、クラウドにアップロードしたデータも、基本的には中を覗かない。広告で儲ける必要がないので属性情報をまとめる必要がないからだ。そうやって、「我々は信頼できるハードウェアとそのプラットフォームを売っています」という形を採ることで、それをブランド価値に転換しているのだ。

 結果的に、属性に応じた行動マッチングは難しくなる。いや、いつかはできるだろうが、いまやるならクラウド側での情報収集と解析が必須。地図やSNS、検索などのウェブサービスを持つ企業に有利であり、Appleには不利だ。だからそこでの精度を、Appleはまだそこまで信じていない。シンプルな時間+付加情報でのサジェスチョンに加え、アプリ側に「繰り返し処理のワークフロー化」を助ける機能を搭載する……正確には、アプリデベロッパーに搭載してもらえるように基盤を整えることで、対応しようとしている。

 スマホ内での操作をすべて記録し、解析できる技術があるなら、こんなことは不要だ。だが、人間の日常的な動きはノイズが多すぎて、低いコストでは解析が難しい。だから当面、AIが「空気を読む」のは難しく、「いままでの操作結果履歴」から繰り返しが必要な行動の傾向を掴む程度が現実的といえる。

 ただし欠点は、やはり「アプリ側の対応が必須」であることだ。アプリベンダー側として、AI処理を助けるための改修が「アプリ(サービス)を売るためにプラス」と判断されればいいが、その価値よりも改修コストの方が大きいと判断されれば、iOS 12で実装される「ショートカット」機能は、さほど有効に働かない可能性が高い。

 iPhone Xへの画面最適化どころか、16:9系の画面への最適化すらAppleから強いられないとやらないデベロッパーが多い状況で、果たして、AIを見据えたアプリ改修は進むのだろうか。少々悲観的に見ている。それが、巨大化した「スマホ」という市場の本質だ。自分で改変すれば終わりである分、強いウェブサービスを持つGoogleやFacebookは強い。

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