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なぜ今、カメラ各社が新マウントを出すのか荻窪圭のデジカメレビュープラス(2/2 ページ)

» 2018年09月25日 21時16分 公開
[荻窪圭ITmedia]
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なぜ今、各社が新マウントを?

 新マウントの発表がこうも続くなんてなかなかないわけだが、簡単にいえば技術的にも市場的にちょうどそういうタイミングが来た、ということだろう。

 フィルム時代からレンズ交換式カメラをひっぱってきた「一眼レフ」はそもそも、フィルムカメラに最適なレンズ交換式システムだったわけで、それを上手にデジタル化しながらデジタル一眼レフとなって写真業界を引っ張ってきたのだが、そのレガシーさが将来、足かせとなる可能性を常に内包していたのである。

 逆にミラーレス一眼はデジタルならではの理に叶ったレンズ交換式カメラなのだが、技術的な問題から一眼レフを完全に凌駕するところまでは到達していない。

 じゃあ、いつどんなタイミングでミラーレス一眼に注力するかが非常に大事なわけで、技術的に熟成してない段階で出してユーザーにそっぽを向かれても困る。そんな中、APS-C用マウントだと思われていたEマウントにフルサイズセンサーを入れて業界を驚かせたのがソニー。「α7」だ。

 フルサイズセンサーのデジタル一眼という一眼レフの独壇場だった世界にミラーレス一眼が殴り込みをかけてきたのである。

初代「α7」とAPS-Cサイズセンサーの「NEX-5N」。フルサイズセンサーがギリギリ

 いや今みてもよくこのマウントにフルサイズセンサーを入れたなあと思う。しかも後継機ではこのセンサーを動かすボディ内手ブレ補正まで搭載したのだ。

 でも技術的な進化のおかげもあって、α7は年々完成度を上げ、カメラとしての性能もシェアも伸びてきた。

 新しいカメラシステムは投入してから軌道に乗るまでどうしても時間がかかる。それを考えると、技術的にある程度熟成してきてミラーレス一眼でもカメラとしてしっかりした性能を出せるようになった今が一番のタイミングだったといっていいだろう。

 一眼レフ用のマウントをそのまま使ったミラーレス一眼を作ることもできるが(実はペンタックスが一度挑戦している)、マウントは「レンズとボディの接合部の規格」というだけじゃない。マウントとイメージセンサーの距離やレンズとボディの信号のやりとりも決まっている。

 ちゃんとイメージセンサーの位置でピントが合うように設計されるので、一眼レフと同じマウントにすると「マウントとイメージセンサーの距離」も一眼レフと同じにしなきゃいけない。

 そうするとマウントとイメージセンサーの距離(フランジバック)が長いので、ボディが一眼レフと同じように厚くなり、小型化のメリットが生かせない。

 将来を考えてミラーレス一眼を作るには、マウント径もフランジバックも、さらに今の時代に合わせたレンズとボディの信号のやりとりの規格も決めないと、早晩取り残されてしまうのである。

 そしてニコンとキヤノンがほぼ同時に動いた。ニコンのZマウント、キヤノンのRFマウントの共通点はマウント径が大きいこと。Zマウントは55ミリ、RFマウントは54ミリ。対して先行するソニーのEマウントは46ミリと一回り小さいのである。

キヤノンの発表会にて。たまたま「α7RIII」を持っていた知人がいたので並べてもらった。RFマウント(ちなみにZマウントはこれより1ミリ大きいが見た感じは同じくらい)とEマウントのサイズ差がよく分かる

 ニコンもキヤノンもプロの写真家を多く抱えるブランドであり、彼らの画質に対する高い要求に応えるレンズを設計していくことを考えると、このマウント径の差は後で影響してくるかもしれない。

ミラーレス一眼のメリットはマウントアダプターが使えること

 かくして、ちょっと前まではフルサイズセンサー対応のミラーレス一眼用マウントはソニーのEマウントだけで(ライカも出してるけど、あれはまあおいとくとして)、それ以外はAPS-Cサイズ(富士フイルムのXマウント、キヤノンのEF-Mマウント)かマイクロフォーサーズ(オリンパスとパナソニック)だったミラーレス一眼の世界に、いきなり2つのフルサイズセンサー対応マウントが登場したのである。

 ZマウントもRFマウントも新しいマウントなので同時に出るレンズも3〜4本。当然ながらまだまだ少ないのだが、そこをフォローするのが「マウントアダプター」。ミラーレス一眼は一眼レフに対してフランジバックが短いので、その距離の差を埋めてやることで「一眼レフ用のレンズでもちゃんとミラーレス一眼のイメージセンサー位置にピントを合わせることができる」ようになる。

 ニコンの場合、Zマウントのフランジバックが16ミリでFマウントが46.5ミリなので、その差は30.5ミリ。それを埋めると同時に電気接点もコントロールしてやることで、ミラーレス一眼に一眼レフ用の従来のレンズを装着できるのだ。

 マウントアダプター経由でも一眼レフ時と同様の性能(AF性能など)を発揮できるのであれば、当初のレンズの少なさはけっこうフォローできる。しかも望遠レンズはミラーレス一眼用に設計し直してもコンパクトにはならないので、一眼レフ用のものをそのまま使っても問題はない。

Nikon Z 7にマウントアダプターを介して一眼レフ用のレンズを装着した

 かくして、EFマウントを使っていた人はRFマウントのカメラ+マウントアダプター、Fマウントを使っていた人はZマウントのカメラ+マウントアダプターで従来のレンズをそのまま使えるわけである。

 ただし、フランジバックが短い同士だと難しい。例えばキヤノンのEF-MレンズとRFレンズはフランジバックが同じなので、マウントアダプターを作りにくい。EF-Mマウント用のアダプターがないのはそれが理由だ。EOS Rで一眼レフ用のレンズを使えるのに、なぜ同じミラーレス一眼のEOS M用レンズを付けられないのだ、というのはそれが理由。残念だけど。

 もう一つ面白いのは、「電気接点」を無視すれば、どんなマウントアダプターでも作れるということ。距離を合わせさえすればいいのだ。それを生かして、AF以前のオールドレンズをミラーレス一眼に装着して楽しむ人もけっこういる。

 マニュアルフォーカスにはミラーレス一眼の拡大表示などMFをアシストする機能は非常に向いているし、ボディ内手ブレ補正があればそれを効かせることもできる。

富士フイルムの「X-T2」にマウントアダプター経由でニコンのFマウントレンズ(マニュアルフォーカス時代の古いレンズ)を装着。これはこれで古いレンズの写りを楽しめる

 そのジャンルではα7シリーズが優勢で(まあフルサイズセンサーのミラーレス一眼は他になかったわけだし)、実際、フォトジェニックなスポットへ行くと、α7系+マウントアダプターで写真を撮ってる人をけっこう見かけるのだ。AF以前の古いレンズが、最新のミラーレス一眼で蘇るってのも面白い現象だなあと思う次第である。

 かくして、マウントが増えた上にマウントアダプターまで絡むのでかなりややこしいことになってきたけれども、写真好きにはすごく面白くなってきた。と同時に、次に買うカメラについての悩みも深まるかもしれない。

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