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CESの主役は「次世代モビリティ」、そして「オープンイノベーション」だったCES 2019(1/3 ページ)

» 2019年01月24日 13時33分 公開
[山本敦ITmedia]

 今年のCESではAI(人工知能)とエレクトロニクスが融合を遂げた家電製品やサービスを多く見られるものと期待していたが、実際には大きな進展が見られなかった。数年前にCESを取材した時は、出展していたメーカーのスタッフが「AI(人工知能)を搭載するスマート家電はもうすぐにユーザーの生活パターンを学習して、自分で考えながらユーザーをサポートしてくれるようになるはず」と話していたものだが、残念ながらその実感が得られるようになるまでもう少し時間がかかりそうだ。

2019年のCES会場は例年を超える熱気に包まれていた。写真はパナソニックのブース

 原因としてはAIまわりのテクノロジーが未成熟だったり、サービスを提供するための技術がプラットフォームとしてまとまっていないことが考えられる。ディープラーニングのために必要なデータを集めて活用する段階では、ユーザーのプライバシーを保護するための仕組みも十分に整えなければならない。しかし、最も大きな課題はサービスを提供する側と受ける側の両方が、AIによって便利になる生活のイメージが確立できていないことにあると思う。

 その手詰まり感をメーカーは感じているのかもしれない。状況の打破を目指し、多くの企業が「オープンイノベーション」の旗印のもとに集まり、知恵を絞っている。2019年のCES会場では至るところにオープンイノベーションを呼びかける出展社の姿があり、来場者の中にも新しいビジネスチャンスをつかむため、それに参加したいという熱気が渦巻いていた。

 筆者は特にオートモーティブやモビリティの出展社が多く集まるホールを取材しながら、とくにその熱い空気を肌で感じた。ここ数年、CESには自動車関連の出展が増えたといわれているが、新型の自動車や完成したサービスがそこに並んでいるわけではないというところが、CESとモーターショーの大きな違い。インターネットへの常時接続機能を持つコネクテッドカーや自動運転技術、その周辺に芽吹きつつあるサービスがメインテーマになっているところがCESらしさであり、このイベントに注がれる視線が年々熱を帯びている理由でもある。つまりオープンイノベーションの相手を探すにはうってつけの場なのだ。

ヤマハが提案する低速移動電気自動車のビジネス

 ヤマハ発動機は昨年に続いて2度目のCES出展となった。同社はゴルフ場やリゾート施設など、歩行者もいる私道の短い距離を時速20キロメートル前後で低速移動する電気自動車のコンセプトモデル「Public Personal Mobility」(PPM)を自社で開発している。

ヤマハが出展した低速移動する電気自動車「Public Personal Mobility」(PPM)。去年と基本のコンセプトは同じだが、仕様と機能を一新していた

 昨年は本体の底面にイメージセンサーとLEDライトを載せ、事前に路面の画像をスキャニングしたデータベースと画像認識技術によってマッチングさせることでモビリティの現在位置をマップ上でリアルタイムに把握しながら、道路をはみださずに安全走行を実現するという技術を中心に紹介していた。画像認識のためのシステムは比較的安価で、さらに自動車を走らせるためのセンサーなどの機器を設備内に張り巡らせる必要もないことから、初期の設備投資コストが大幅に抑えられることがメリット。ゴルフ場やリゾート施設のプライベートエリアなどで実証実験を重ねてきた。

 今年はAIによる顔画像認証を用い、モビリティのユーザー認証や走行をコントロールする“リモコン”にする技術を披露した。事前に乗車するユーザーの顔を登録して電子キーを発行。車内のカメラで乗客を認識するとエンジンがかかり、全員のサムズアップで始動する。手のひらをカメラに向けてかざすと停車する。ジェスチャー操作で車を運転するデモンストレーションだ。

顔情報を事前に登録。権限を与えられたユーザーだけがジェスチャー操作で車を運転できる

 ヤマハ発動機は「あらゆる分野の垣根を越えたパートナーを発掘し、オープンイノベーションによって技術革新と新たな事業の創出を目指す」としている。PPM担当者は「パートナーが期待するアイデアに柔軟に対応できるオープンなプラットフォームだ」と胸を張った。ニーズに合わせたカスタマイズに対応する準備も整いつつあるという。

コネクテッドカー関連技術をずらりと並べたデンソー

 2014年以降、CESに継続的に出展しているデンソーは、インターネット常時接続機能を備えるコネクテッドカーやADAS(先進運転支援システム)を実現するためのハード/ソフト、およびそのプラットフォームを提供する日本のメーカーだ。

 コネクテッドカーの心臓部として開発しているのが、「Mobility IoT Core」と呼ばれる車載向けコンピュータ。自動車の走行状態や位置情報などのデータを取得・解析し、クラウド処理と並行しながら走行制御を行うエッジ端末となる。デンソーのブースにはCPUの演算処理性能を高めながら、同時に小型化も図った最新版のプロトタイプを展示していた。

コネクテッドカーの心臓部にあたるエッジコンピューティングデバイス「Mobility IoT Core」。こちらに車載用の通信アンテナやディスプレイなどをつないで機能拡張ができる

 デンソーは、このMobility IoT Coreの上に様々なハードとソフトを組み合わせてパッケージング、パートナーへ提供することを次の中核ビジネスとして見据えている。その際に組み合わせる技術の1つが「デジタルツイン」だ。今年のCESでは市街地交通の情報管理にデジタルツインの仕組みを応用するコンセプトを披露した。

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