ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >
ITmedia AI+ AI活用のいまが分かる

AI導入の秘訣に「ID野球」あり 名監督に学ぶAIマネージャーの理想像マスクド・アナライズのAIベンチャー場外乱闘!(3/5 ページ)

» 2020年03月25日 07時00分 公開

データは分析するためにある 

 データを集めたら、次は分析を進めます。

 野村監督は自著「負けに不思議の負けなし」などで、あらゆる球団の戦力や選手を分析して、長所短所を見抜いていました。データ分析のためには手段を選ばず、選手が試合後に足を運ぶ高級クラブにも目を光らせたそうです。

 こうして手に入れたデータを打者に聞かせる「ささやき戦術」を駆使するなど、分析だけでなくデータの使い所も分かっていました。

 また、捕手は試合全体を見るポジションであり、打者によって野手の守備位置を変えたり、塁にいる走者によってその時々の状況判断が求められたりします。その上で最適な守備位置を指示することは、「ボールを捕る捕手」ではなく「チームを補う補手」といえるでしょう。

 企業の取り組みとしては、データをそろえたら自社業務における強みや弱みの把握、人材や予算の配置、スキルの可視化などを進めましょう。やみくもにAIを導入するのではなく、AI導入すべきポイントとして、「投資に対して利益が出やすい業務」「属人化し、代替えが効かない業務」などを洗い出します。そうすれば業務内容や費用対効果を理解した上で、AI導入をすべき箇所も分かります。

 つまりAIマネージャーは、会社全体を俯瞰(ふかん)できるポジションであることが重要です。野球の捕手と同じく、足りない部分をAIで補う役割になります。

新たな人材の育成

 野村監督の人材育成は「野村再生工場」と呼ばれて、多数の選手を輩出しています。

 再生工場と呼ばれた背景として、選手兼監督時代の南海ホークスはもちろん、監督となったヤクルトや楽天では実績のある選手を他球団から獲得するのが難しかった面があります。

 そこで球団運営側である編成とフロントに理解を求めて、3年かけて既存選手やドラフトで新規獲得した選手を育成することにしました。選手育成には「変化すること」を掲げて、選手ごとに的確な指導を施すだけでなく、選手自身が気付く仕組みづくりを進めました。

 特に投手はプライドが高くアドバイスを聞かない傾向にありましたが、選手の性格を把握するなど的確な指導を重ねてきました。こうして他球団から選手を獲得する補強に頼らず、育成によって優勝できるチームを築きあげました。

 企業においても、多額の報酬でAIエンジニアを採用するのは難しいです。費用面だけでなく、既存社員からの嫉妬と不満にもつながりかねません。なので、社内から素養がある社員を選抜して、再生工場のように育成すべきでしょう。自社業務や社内事情にも詳しいので、一方的にAIを押し付けて衝突することもありません。

 野球も会社もチームで戦うものであり、高いスキルだけでなく周囲との協調性が必要です。1人で野球はできませんし、AI開発でも1人でプログラミングやデータ整備やビジネス活用を進めるのは不可能です。個々のメンバーがお互いの得意分野を生かし、苦手な部分を補うことがAI活用につながります。

 だからこそスキルを可視化して、強みと弱みを把握しながらチームを作る必要があります。優秀なチームは、一朝一夕で出来上がるものではありません。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.