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2004/02/12 00:00 更新

通信と放送の“非”融合 〜何が両者の間を隔てているのか?
第7回:ブロードバンドで「トリビアの泉」を見られるか?(4)

今回は「時間」に対する生活者のニーズをテーマに検証していく。通信側がいつも唱える「いつでも・どこでも」というサービスをユーザーの立場で考える。

 さて、「放送」と「通信」の違いから、両者の融合の課題を浮き彫りにしていくという本稿も7回目を迎えたが、今回は「時間」に対する生活者のニーズをテーマとしたい。特に筆者が問題提起として投げかけたいのは、通信側がいつも唱える「いつでも・どこでも」というサービスのあり方についてである。

放送の時間「編成」

 放送事業者と通信系の事業者の認識が異なる点の一つに「時間」に対する感覚の違いがあると思われる。

放送事業者、中でも民間放送事業者のビジネスモデルは「広告無料型」である。そこでの評価の基準は、広告主が広告の枠を購入してくれるかに尽きており、たいていの場合は「どれだけたくさんのお客さん(=視聴者)を集めることができたか」、というボリュームつまり「視聴率」が重視される。

 そしてもう一つ重要なのは、その番組が放映される時間帯である。特に19:00〜22:00はゴールデンタイムと呼ばれ、高い価格で広告枠が取り引きされる。なぜならこの時間帯に視聴者が最も集まりやすく、また購買意欲の強い視聴者(なかでもF1層と呼ばれる20〜35歳の女性層が重宝される)が集まりやすいためである。

 この「時間帯」という枠に基づき広告枠の価格体系は出来上がっている。19:00開始の番組は19:00に、23:00からの番組は23:00から視聴してもらうことを前提とした枠組みなのである。

図

 逆に、この価格体系を壊すような動きには放送局は非常に敏感になる。たとえば最近放送事業者が注視しているのはハードディスクレコーダーなどの「タイムシフト」と呼ばれる視聴を促すような情報家電の存在である。

 つまり19:00に放映された番組であっても、ユーザー側の生活スタイルに合わせて、23:00から見たり翌日以降に視聴するような「タイムシフト型」の視聴スタイルが一般化するようなことになれば、この価格体系を根本から崩すことになりかねない。

 このことは「通信」と「放送」を融合させたような「ブロードバンドTV放送」を考える上でも考慮しなければならない点である。仮に地上波番組の再送信を行うとすれば水曜日21:00開始の「トリビアの泉」は当然ながら水曜21:00からスタートしなければならないし、これを通信事業者側の都合で勝手に22:00からスタートさせるようなことは、放送事業者側の立場としては許されないことになる。

 またVOD(ビデオ・オン・デマンド)のようなサービスで再放送を行うとしても、本放送の放映時間から一定時間(期間)以上離すといった配慮が求められることになる。放送事業者側の感覚でいえば、21:00から放映した番組が23:00から再放送されてしまうと23:00からの別の番組の枠に影響するようなことは避けて欲しい、ということになる。実際国内外で地上波番組をブロードバンド上で“再放送”をする場合には、一定間隔以上の時間を空けることがほとんどである。

「いつでも」「どこでも」のVOD型視聴の再検証

 さて、ここまではいうなれば「放送」的な「時間帯」の捉え方である。これに対してどちらかといえば「通信」の側からは、「これからは『いつでも・どこでも』好きな時間帯に番組を視聴することが可能になる」というVODサービスが、「通信」と「放送」の融合の具体的なサービスイメージとして長らく語られてきた。確かにこれは視聴者を視聴率で測定し「マス」という塊で捉え、「時間帯」という枠の秩序を有する放送事業者からはなかなか出てこない発想であるし、もともとユーザー一人一人のトラフィックを捉えることを得意とする通信系事業者ならではの発想に近いともいえるかもしれない。

 しかし、コンテンツを視聴する時間帯を「いつでも」自由に選択できるというのは実はくせ者で、そこからもう一歩踏み込んだところに、真の意味での「通信」と「放送」の融合像があるのではないか、というのが我々の仮説である。

 そこでいわゆる「タイムシフト」型の視聴ニーズについて、よりユーザーの側から踏み込んで考えてみよう。

 下記の図は、インターネットの利用状況を示したものである。

図

(クリックで拡大表示)

 この図から明らかなように、実はインターネットは本来「いつでも」自由にアクセス時間を選択できるのにもかかわらず、実はその利用時間は22:00台をピークに集中している。このようなアクセスの一斉集中は、ネット事業者にとってはサーバー等の増強といった対応を迫られることになり、悩みの種になり易いところであるが、現実問題として、インターネットユーザーのすそ野は着実に拡大しつつある一方、期待されていたほど、ユーザーの行動の分散は行われていないと解釈することもできる。

 さらに、最近よく耳にするのは、あるコンテンツを公開した場合、コンテンツへのアクセスがもっとも増大するのは、そのコンテンツを公開した直後から数時間であるというデータの存在である。

 例えば、年間300万話の販売に成功し、注目を集めているバンダイチャンネルによると、同サイトでは一週間に一度コンテンツをアップしており、会員はアップされたコンテンツをいつでも好きなときに視聴できるようになっている。面白いことに「いつでも」見られるはずにもかかわらず、アクセス数は公開直後にもっともピークを迎えているという。つまり、土曜の24:00以降にサーバー上にアップされたコンテンツのアクセスは、土曜深夜から日曜日に集中し、中でも土曜日の24:00のサーバーへのアップの更新直後がもっともアクセス数が高かったという。

 これらのデータは「いつでも」「どこでも」という「ユビキタス」という言葉でくくられてきた事象とは異なる結果となっている。これはブロードバンド黎明期だから起こる事象なのであろうか?

「いつでも」見られるでは「いつまでも見ない」

 ここからは私見となるが、「いつでも」見られるという完全に自由な環境は、ユーザーにとっては、そのメディアやコンテンツを選択するきっかけを得られないことになるのではないだろうか?

 つまり「いつでも」「どこでも」見られることを訴求することよりも、「この時間帯にふさわしい」情報やコンテンツ、あるいは「この瞬間にしか見られない」情報やコンテンツである、ということを訴求することの方が、ユーザーを多数惹き付けることになるのではないだろうか。

 逆に「いつでも」見られます、ということになれば視聴者は「今見なくてもいい」という認識を抱き、結局そのコンテンツは見られないままに終わってしまうことにもなるのではないだろうか。

 具体的には「朝起きてすぐ」に見るコンテンツ、「昼食時の休憩の間に見るコンテンツ」、「寝る前の5分に見るコンテンツ」といった具合に、あらかじめユーザー側の生活シーンの中での情報やコンテンツに対するニーズを元に、時間帯に合わせた情報を提供することこそ、実はユーザーが求めているものではないのだろうか。

通信ならではのユーザーの文脈(=コンテクスト)に合わせた「時間」編成

 お気づきの通り、この時間帯に合わせた情報の提供という発想は、放送業界が長らく築き上げてきた「編成」という考え方に他ならない。

 「放送」出身の用語で例えば「朝ドラ」「昼メロ」「月9」等々、曜日や時間という尺度とコンテンツの中身が一体となっている用語が少なくない。これはその時間帯にテレビの前にいる最大公約数のユーザー・ニーズを長年かけて放送業界が定着させてきたものである。

 そして、「通信」と「放送」の融合形態を考える上でも、この生活者のニーズを掘り起こすという視点からの「編成」という考え方は、今後も重要なのではないだろうか。特に従来「放送」が考えてきた編成枠ではこぼれてしまうユーザーを柔軟に拾い集められる点に「通信」の側のチャンスがあるのではないだろうか。

 言い換えれば、情報メディア産業界は、「いつでも・どこでも」という言葉の呪縛から脱却し、ユーザーの視点にたって「この時間に・この場所で」みたいと思う情報を提供していくという姿勢への転換が、求められているのではないだろうか。

 さて、次回は「編成」という考え方からさらに一歩進め、ユーザーの「欲求」の喚起、という視点から、ブロードバンドTV放送から見た「通信」と「放送」の融合についての総まとめをしてみたい。

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[井上忠靖,電通総研]

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