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米国で普及が進むスマートフォンとモバイルミドルウェアITソリューションフロンティア:海外便り

» 2004年06月08日 00時00分 公開
[田中英,野村総合研究所]

米国で急速に普及が進むスマートフォン

 米国では最近、従来の多機能携帯電話とは一線を画すスマートフォンの市場が急速に成長してきている。スマートフォンとは、Palm OSやWindowsCEといったOS(基本ソフト)を搭載し、従来より柔軟にビジネスアプリケーションを稼動できる、高機能版多機能携帯電話といったものである。

 2003年にはマイクロソフト社のWindows OSを搭載したスマートフォンが登場し、2004年2月にはリサーチインモーション社(カナダ)のブラックベリー端末(キーボードを備えスケジュール管理・カレンダー・メール送受信などの機能をあわせもつ)の出荷台数が100万台(累積)を突破した。またパームワン社(旧パーム社)は、2003年に買収したハンドスプリング社のスマートフォンを武器に、従来のPDA(携帯情報端末)路線からの方向転換を図っている。

 米国では早くからPDAが企業で利用されており、スマートフォンも、PDAで培われたビジネスソリューションにワイヤレス機能を付加したものという位置付けでユーザーに受け入れられている。

モバイルのビジネス利用における課題

 スマートフォンの出現により、企業におけるモバイルの利用形態は変化している。従来は、PDAへの情報の取得・蓄積は企業内で行い、外出先でその情報を利用するというものであったが、いまでは外出先から企業内ネットワークに接続し、オンデマンドで情報を取得するという形態に移行しつつある。しかしそれを実現するためには、解決しなければならない3つの課題が存在する。

 1つ目の課題は、モバイルネットワークの不安定性にいかに対応するかである。モバイルネットワークは電波を利用するため固定回線と比較して通信品質が低いという弱点がある。また、米国内には携帯電話の圏外地域が少なからず残っているため(ワイヤレス通信キャリア最大手のベライゾンワイアレス社の人口カバー率は約90%)、通信断が発生しても業務は継続し、後でオフィスデータセンターとデータの整合性がとれるような仕組みが必要である。

 2つ目の課題はセキュリティの確保である。モバイル端末は持ち運びが容易である反面、紛失リスクも高くなる。そのためモバイル端末においてもデータの暗号化や認証、アクセス制御などの仕組みが必要である。3つ目の課題は、多くの機種および仕様にいかに対応するかである。米国には多くの携帯通信キャリアがあり、端末機種・仕様が多岐にわたる。そのためアプリケーションの開発を容易にするには、端末ごとの仕様の違いを吸収する仕組みが必要である。

注目されるモバイルミドルウェア

 上記の課題に対するソリューションとして注目されているのがモバイルミドルウェアである(表1参照)。

表1

 ネットワークの不安定性に対応するためには、オフライン処理、定期的に端末とセンター間の接続を行う機能、チェックポイントから再度処理を開始する機能、ファイルおよびバイト単位での差分検査機能などが提供されている。

 セキュリティ確保のためには、センター側で端末を一元管理できる機能や、センター側から端末上のアプリケーションをロックする機能、センター側からの端末へのデータ配布・削除機能、通信の暗号化、ユーザー認証機能などが提供されている。

 多機種・多仕様への対応としては、共通に利用可能なライブラリ、GUI(グラフィカルユーザーインタフェース)ベースの開発環境が提供されている。

 このほか、インスタントメッセージへの対応、音声入力、文脈判断によるセキュリティポリシーの適用などを実現する製品も登場しつつある。

今後ますます重要になるモバイルミドルウェア

 モバイルミドルウェアを利用することで、モバイル利用のビジネスソリューション構築に要する時間・コストの大幅な圧縮が可能となる。米国ではワイヤレス通信キャリアの企業再編や次世代ネットワークの整備など、モバイルを取り巻く環境は劇的な変化を迎えている。このような環境下で、既存の仕組みを有効に活用して企業ビジネスを拡張するモバイルミドルウェアは今後ますます重要になってくると思われる。

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