コラム
» 2004年07月27日 00時00分 UPDATE

ITソリューションフロンティア:視点異才融合

[谷川史郎,野村総合研究所]

 あるメーカーのトップが、「当社のやるべき戦略は980円の本に書いてある。やるべきことは明快であり、やるかやらないかだけの問題だ」と指摘したことがある。まさに今は、組織としての戦略実行力が問われる時代になっている。

 たとえばコンビニエンスストアチェーンのセブン−イレブンは、営業利益率が36%を超えるという、業界で圧倒的にトップの数字を誇っている。しかし消費者からみれば、その店舗に置かれている商品の品揃え、価格、さらに立地に関しても、他のチェーンの店舗との間に大きな違いは感じられないであろう。にもかかわらず業績に大きな違いが出ている理由は、戦略の違いというより、POSデータを活用し、「売れ筋・死に筋」の管理を徹底して行っていることにある。

 また、日産自動車を復活させたカルロス・ゴーン氏が、日産再生の実行部隊にクロスファンクションチーム(全社横断チーム)を重用してきたことはよく知られている。全社横断チームを、戦略を立案し実行に移すための能力を高める方策として上手に活用しているのである。

 組織が困難に立ち向かおうとする時、一人の知恵では限りがある。異なる経験をもった人間の知恵を組み合わせることで、より幅と深みのある解決策が得られる。これは誰しもが漠然と期待するところであるが、実際には「船頭多くして、船、山に登る」のたとえがあるように簡単ではない。異なる能力をもつ人間をチームにして成果をあげるには工夫がいる。このような他人の知恵を、私どもの社内造語で“ブレインウェア”と呼んでいる。

 世の中にあるものをハードウェアとソフトウェアに分類するとすれば、ソフトウェアとは一般にコピーが容易で、コピーされたものがオリジナルと同じ機能を示すものを指している。しかしソフトウェアのなかには、ハードウェアと同様にコピーすることが難しく、またコピーしたものがオリジナルと同じ価値を示すとは限らないものがある。これがブレインウェアで、技能・技法と呼ばれるような個人のノウハウに属する知恵のことである。たとえば、指先の感覚によって金型の表面研磨精度をミクロンオーダーで感じ修正することができる職人技などを、その例としてあげることができる。

 個々人の中にあるブレインウェアを複数組み合わせて力を発揮することを、われわれは“異才融合”と呼んでいる。この仕組みは脳の構造によく似ている。脳は神経シナプスが結合したものであるが、必ずしも中心があるわけではない。ある刺激に対してシナプスが興奮して発火し、その刺激が近隣のシナプスに伝わることで脳は機能している。

 異才融合でも、それと同じような仕組みが働いている。すなわち、関係者全員が驚異(おどろき)と感じる事実が刺激となって、それに興味をもった者によって質問が繰り返される。こうして刺激が刺激を生み、新しいアイデアと行動力が生み出される。

 自動販売機で缶入り飲料を販売しているある企業で、近年、ある地域でじわじわと自動販売機の設置台数シェアを拡大しているところがある。これを仮にA社とすると、A社は地域でのシェアがNo.2の位置を占めているが、このところ、顧客満足度を定期的に計り高い満足度を維持することで、シェアNo.1の企業を射程距離にとらえるまでにシェアのアップに成功したという。

 いまどきはどの企業も顧客満足度を定点観測することは当たり前になっており、当然、No.1の企業も顧客満足度を分析していたに違いない。しかしA社が着眼した顧客満足とは、No.1の企業とは異なる点であった。

 これまでの業界の常識として、顧客すなわち自動販売機を設置するオーナーの最大の関心は、自動販売機の売り切れ状態をできるだけなくすことであると信じられてきた。そのため、できるだけ短時間に補充作業を行い、できるだけ多くの自動販売機を回ってオーナーの信頼を得ることが、シェアの拡大にとって重要と考えられてきたのである。

 それに対してA社では、自動販売機で売られる飲料の販売数量は立地によってほぼ決まっており、また類似商品も多いことを考えれば、自社の販売機を多く置いてもらうには、品切れを起こさないように努力することも大事だが、オーナーとの人間関係がそれ以上に大切だと考えた。そのためA社では、自動販売機に商品を補充する際には、オーナーと接点をもつようにするため、オーナーからバケツを借りて、持参した雑巾で自動販売機を掃除するように指導しているという。また、オーナーと会話をすることが奨励され、そのための会話集も用意されている。さらに、この会話集を成功事例に基づいてレベルアップする活動も行っている。

 短時間での商品補充に力点を置き、短時間に多くの自動販売機を回って欠品率を最低に維持するというやり方は、たしかに成長期の市場では必要なものであった。しかし、そのやり方が各社の間で常識化し、また市場が成熟期に入って市場規模の全体的な拡大が難しい局面では、これによって競争力を維持し続けることは難しい。

 上記の事例に限らず、現状を変える新しいアイデアと行動力を生み出すためには、常識にとらわれず異なる視点をもって驚異の事実を示すことのできるさまざまな人材を見出すこと、またそれを組み合わせて異才融合の効果を高めることが大切である。それがなければ、また新しい挑戦者によって苦しい戦いを強いられることになるであろう。

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