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多様化するシステムにおけるIT基盤の重要性特集:IT投資マネジメントの視点

» 2004年11月02日 03時00分 公開
[橋ヶ谷光久,野村総合研究所]

オープンシステムの問題点

 近年、企業の情報システムは、構築期間の短縮をおもな理由にオープンシステムの構築が増えている。しかしそのメリットの一方でさまざまな弊害も表面化してきた。オープンシステムはハードウェアもソフトウェアもシステムごとに異なるベンダーの製品を利用することが多いため、たとえば次のような問題が発生するからである。

(1)製品数に比例して保守コストが増大する。

(2)社内にノウハウが残りにくくなり、修正を行う場合はベンダーに依頼しなければならなくなる。

(3)ユーザーインタフェースがシステムによって異なり、全体として利用者にとって使いにくいシステムとなっている。

IT基盤からみた情報システムの現状

 この問題の背景をIT基盤の面から少し詳しくみてみると、以下ような点が指摘できる。

 第一は技術の進展に関連する問題である。現在の企業情報システムには、レガシーシステムである大型汎用機やオフコンが残っている。その一方で、レガシーシステムと比べて早く、安く、簡単に作れ、操作性も格段に向上させたオープンシステムが増加してきた。UNIXサーバーやPCを活用したオープンシステムでは、1990年代に主流であったクライアントサーバー型システムや、現在主流となっているブラウザを利用したWeb型システムなどさまざまな技術を利用したシステムが混在している。

 第二はオープンシステム自体の特性である。製品の選定において、レガシーシステムではハードウェア、ソフトウェアともに単一のメーカーの製品でそろえるのが一般的であり、開発言語も統一されている。一方オープンシステムでは、ハードウェアとOS(基本ソフト)はA社、データベース管理ソフトはB社、オンライン処理はC社というように、ハードウェア、ソフトウェアを自由に組み合わせて利用することができる。製品の組み合わせの自由度が高すぎるため、利用する製品は「開発を依頼したベンダーが得意な製品」であったり「担当者の趣味で選定した製品」であったりする。

 第三は、オープンシステム開発の特徴である。オープンシステムではハードウェアも含めてシステム機能ごとに新規に構築することが多く、システムの数が増大してきた。そしてシステムごとにデータベースを構築し、他システムとのデータ授受を行うこととなる。そのため、情報の分散、データ連携の複雑化が生じ、早く、安く作れるはずのオープンシステムの構築に時間がかかるようになってきた。このような背景のもとで、冒頭に述べたような問題が発生してきたのである。

重要なIT基盤整備

 この状況を打開するためには、まず基盤製品標準の策定を行う必要がある。そして自社の利用技術(ハードウェア、ソフトウェア)をマッピングし可視化した上で、IT基盤の標準化を行い、標準化されたIT基盤の上でアプリケーション開発を行う必要がある。

 レガシーシステムでは、1 つのハードウェアをアプリケーションが共有するため、おのずと運用管理やセキュリティ、開発言語や開発のプロセスが標準化されていた。新規に独立して構築されるオープンシステムで最も欠落しやすい部分が、このような基盤の標準化である。標準化すべき内容は企業により異なるが、一般的には以下の標準化を行う。

(1)運用の標準化

(2)セキュリティの標準化

(3)ストレージの標準化

(4)システム間データ連携方式の標準化

(5)開発の標準化

 このような標準化により、ベンダーの都合に合わせた開発から、自社で定めた標準に則したシステム構築への転換が実現できる。

ビジネスモデルとの整合性も重要

 標準化と並んで重要なのが、自社のビジネスモデルのアプリケーションに適したIT基盤の構築である。IT基盤はシステムの信頼性や拡張性と密接に関係しており、この部分はアプリケーションだけでは解決できない。このためIT基盤は経営の目的や方向性、システム化する業務の特性を理解した上で適切に構築されることが重要となる。

 たとえば、突発的な業務処理の増大に耐えることができるとか、24時間稼動できる信頼性が必要であるなど、業務の特性によって基盤構築の方向性が変わってくる。また、システムのライフサイクル(想定する耐用年数)に対する考慮も重要である。長期にわたり改修を重ねて使用するシステムであるので、長期間安定して利用できる基盤の選定が重要となる。一方、早くシステムを構築してサービスを開始することが求められるシステムでは、新技術を積極的に採用するなど構築期間短縮に寄与する基盤が必要となる。

 情報システムの土台となる基盤への投資を惜しまず、上で述べたような観点からしっかりとした基盤を確立し、その上に直接業務を支援するアプリケーションを構築してゆくことが重要である。

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