コラム
» 2005年01月21日 03時50分 UPDATE

ITソリューションフロンティア:視点全球凍結

[今井久,野村総合研究所]

 もう半年以上前の話になるが、NHKが「地球大進化〜46億年・人類への旅〜」というシリーズを放映し、興味深く視聴した。

 このシリーズは、地球の誕生から、生命の発生、生物の進化、そして人類への道程をわかりやすく紹介していく、というもので、どれも秀逸な内容ながら、私がとくに面白いと感じたのは、「全球凍結」というテーマであった。

 「全球凍結」とは、文字どおり地球全体が厚さ1 km以上の厚い氷で覆われた状態になってしまうことである。46億年前に地球が誕生して以来、すでに22億年前と6 億年前の2 回、実際にあったらしい。

 ちなみに、地球の凍結というと、マンモスが死滅した「氷河期」を想像されるかもしれない。しかし、「氷河期」は、2 度の全球凍結とは全く別のものであり、いまから数十万年前のことである。

 私が「全球凍結」を面白いと感じたのは、想像を絶する天変地異が過去に2度も起こった、という単なる驚きからではない。これが、生物の進化と深い関係があった、という意味においてである。

 とくに、2度目に起こった6億年前の「全球凍結」は、それまで微生物であった地球生命が突然大型化し、急速な進化のプロセスを開始するトリガーとなった。どうして地球生命はこの「全球凍結」という厳しい環境を生き延びることができたのか、またなぜ突然進化が始まり、最終的に人類に至る系譜をつないでいけたのか―――この両面から考えだすと、興味が尽きることがない。

 それにしても、一体なぜ、突然地球は全体が「アイスボール」のようになり、そして元に戻ったのだろうか。

 それは、生命が起こした「大気汚染」という説が有力らしい。「全球凍結」の直前、地球は寒冷化ではなく、温暖化が進んでいたらしい。これには、微生物であるメタン菌が大きな役割を果たしていた。メタン菌の発生させるメタンガスは、今日の温暖化を惹起している二酸化炭素の、20倍もの温室効果がある。こうした温暖化によって、海中の光合成生物が増え、酸素の供給量は著しく増加した。より生命に適した環境系へと向かっていたのである。

 ところが、この酸素がメタンと化学反応した結果、メタンガスによる温室効果にブレーキがかけられることとなった。このため、温暖化から一転、地球全体が急激な寒冷化に襲われた。つまり、生命の進化や増殖が、地球システムを狂わせてしまったというのである。

 そうなると今度は、太陽の光が届かないほどの厚さの氷の下で、いかに生命は生き残ったのかという疑問が生じる。

 しかし、この答えは簡単で、地球の火山活動のおかげである。火口付近は氷を解かした温水プールのようになって、「全球凍結」期間も微生物にとってシェルターの役割を果たした。さらに、二酸化炭素ガスを含んだ噴煙は、大気中の温室効果ガスの濃度をどんどん高め、再び地表の温度を上昇させて、「アイスボール」を解氷させたのである。

 問題なのは、「全球凍結」後に起きた、突然の生物の進化の開始である。なぜそのようなことが起こったのだろうか。

 温室効果がピークになると、地表温度は50 度近くに上昇する。このため、猛烈な蒸発と異常気象が発生し、想像を絶する大嵐や大津波が起こったそうだ。これが、地上や海底を攪拌し、生命体の進化にとっての重要な栄養源が大量供給されることになった。

 高熱化した地球環境とあいまって、光合成生物と酸素量は、爆発的に増大していく。この時、地球上の酸素はそれ以前の20倍近くになり、現在の濃度にほぼ近づいたらしい。酸素量の増大は、生命体にコラーゲンの増殖機能を授け、これにより微生物からいよいよ植物や動物といった大型生物が誕生していくというシナリオが完成する。かくして、生物は進化のきっかけをつかみ、現在の人類へと進化の道程を加速度的に進んでいった。

 余談になるが、2004年夏、『デイ・アフター・トゥモロー』という映画が公開された。この映画は、地球温暖化が天候全体を不安定にさせ、異常気象を引き起こすというのがテーマである。技術革新著しいコンピュータグラフィックスは、迫力ある映像を作り出したが、「全球凍結」の前後の様子は、まさに『デイ・アフター・トゥモロー』に描かれた光景そのままだったはずである。

 人類は、20世紀に入って、「化石燃料」というケタ違いの動力源を手に入れた。そうして、その恩恵によって、驚異的な物質文明を開花させることに成功した。

 しかし、今日、こうした物質的繁栄が、地球環境問題、すなわち資源・エネルギー問題、人口問題、食料問題、富の分配問題など、さまざまな問題を引き起こしている。地球温暖化の問題は、その代表例と言える。急拡大した人間の営みは、地球システムのバランスを崩している。これが、光合成生物の引き起こした「全球凍結」シナリオに符合するようで、肌寒さを覚える。人類は、かけがえのない地球環境を保全する「持続可能な文明社会」の実現を考える時期にさしかかったということだろう。

 しかし、地球環境保全が最も重要なテーマであるとはいえ、この話題は、それ以外にも多くの示唆に富んでいる。要素の変化が従来の全体システムを狂わせてしまうという現象は、もっと身近に起こっている。――現在のインターネット社会である。インターネットの普及によって、個人は無力な情報の受け手ではなく、有力な情報の発信主体となりつつある。個人が大きな影響力をもちうる新しい社会をどうとらえていくかが、未来社会を規定するように思えてならない。

Copyright (c) 2005 Nomura Research Institute, Ltd. Allrights reserved. No reproduction or republication without written permission



Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

Loading

ピックアップコンテンツ

- PR -