第一の、モニター選出の任意性の担保については、いまのところ、解決と呼ぶにふさわしい方策は、残念ながら見あたらない。利用者側で目的と用途に応じ、適切なモニターと調査方法をもつ事業者を選択するしかない。この場合、リサーチ対象の母集団をその事業者がいかに集めているかが重要となる。ランダムにサンプリングした者にモニター依頼を行ったのか、何らかのインセンティブによりモニターになりたい人を募集したのか、謝礼や懸賞によって、一時的かつ大量に回答者を集めるのかで、回答の傾向は異なるからである。
また、ネットリサーチの場合、想定回収率から目標回収数を超える回答依頼のメール配信をすることによって、数時間で目標の回収数を集めることも可能である。しかし、これでは、特定の時間に回答できる環境にあったモニターのみが回答できたことになり、公正なモニターが得られたとは言えない。数日かけて少しずつ配信を行い、モニターの活動時間や休日パターンに依存しない回答を得るなども重要である。
第二の、ネットリサーチの回答者ないしネットリサーチ独特の「癖」についてであるが、ネットリサーチの利用が身近になった現在、利用企業は「癖」の存在を前提として認識しておくことが重要である。また、「癖」を前提とした結果解釈のノウハウを蓄積していくことも重要であろう。
たとえば、ネットリサーチで調査した購入率と、実際の購入率の差について、どの程度の違いがあるかを蓄積することで、ネットリサーチの結果を適切に解釈することができる。
第三の、「モニターの教育効果」の問題は、ネットリサーチの普及が進むにつれ避けられない問題ではあるが、似たような調査はなるべく異なったモニターに配信することができれば、ある程度回避することはできる。そのためにも、一定数以上のモニターをもつネットリサーチ事業者を選ぶことが重要となる。また、モニターにある程度入退会があり、適度なターンオーバーが維持できていることも重要である。
ネットリサーチは、今後、既存手法のスピーディで低コストな代替手段としてだけでなく、その特性を活かした活用法が増加していくものと思われる。以下、NRIが「infoQ」について考えている活用法をいくつか示す。
(1)自由記入欄の活用
自由記入欄はアイデアの宝庫だが、定量的な分析が難しいため、大量に回収しても使いこなしきれなかった。しかし、現在では、テキストマイニングというITツールの進歩によって、大量の自由回答についても人知を越えた知見を検出することが可能となっている。
テキストマイニングを利用すれば、事前調査の自由回答から、モニターが抱いているイメージにフィットしたキーワードを抽出でき、適切なキーワードを選択肢に配した本調査票の設計にフィードバックすることもできる。
この場合、テキストマイニングによってどのような分析をしたいかを想定して自由回答の設問を作成することがきわめて重要であり、検証したい仮説が前提となることは、従来の調査設計と同様である。
また、テキストマイニングは、自由回答を用いてクロス集計を行ったり、記述されているキーワードの出現回数が統計的に優位であるかどうかが検定できるため、定性データを定量データに変換することも可能である。
(2)ASPサービスによる用途拡大
自社顧客リストをもつ企業には、すでにさまざまなやり方でCS(顧客満足度)など各種調査を行っているところが多い。しかし、これでは、実際に自社の商品・サービスを購入した顧客の満足度は把握できるが、不満足以前に自社商品・サービスを購入しなかった者や、そもそも商品・サービス自体を認知していない者については調査することができない。このような場合、自社顧客を特定のWebアンケートに誘導し、リサーチを行うというASP サービスを利用することで、非顧客との対照調査を行い、両者を比較することが可能となる。これは、従来得られなかったCS改善や商品改善の手がかりとなるはずである。
また、こうしたASPサービスは、自社のユーザーアンケート調査に利用する場合にも、スピーディな集計/分析が、さまざまな用途に利用できることとなろう。
(3)自治体・官公庁向け調査
自治体や官公庁では、さまざまなサービスを提供しているが、近年では企業経営の手法をとり入れたニューパブリックマネジメントの普及を受けて、実際に「どのような成果があがったか」というアウトカム指標で評価することが重視されてきている。
しかし、大がかりな調査を行おうとすると、実際に調査実施が予算の確定した年度後半になってしまう。これでは結果の分析から改善プランを策定するのは年度明けになってしまう。サービス向上のPDCAサイクルを年度内に実施するためにも、クイックで低コストのネットリサーチは有効である。
(4)提案ツールとしてのネットリサーチ
B2B事業の多くがソリューションビジネスに移行している現在、成約の可否はその提案力に依存するところが大きい。しかし、提案書にいかに顧客業界の動向を記述しても、知識で顧客を上回ることは困難である。
このような場合、一般的な業界動向ではなく、提案の裏付けにネットリサーチを活用することによって、提案の説得力を飛躍的に高めることが可能となる。
低コストなネットリサーチにおいても、検証したい仮説とこれを検証するためのしっかりとした調査設計が重要であることは、従来となんら変わらない。しかし、その出現によって、リサーチ実施自体の敷居は低くなったことは間違いない。
今後のビジネスにおいては、しっかりとした調査のディレクションと結果の解釈ができるリサーチ利用企業としての「リサーチリテラシー」が重要となっていくであろう。
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