技術論争乗り越え事業化フェーズへ 躍進する「Sakana AI」、創業者デイビッド・ハー氏の狙い(3/3 ページ)
世界の人材が集まる「日本発」のAI企業へ
「日本企業でありながら、応募者の3分の2が海外からだ」。人材採用についてハー氏はこう話す。同社には世界各地から優秀な研究者や開発者が集まっている。これは東京大学など日本の大学が持つ国際的な研究ネットワークと、同社の技術力への評価が相まった結果だという。
同社が現在力を入れているのが、AIによる研究開発の自動化だ。「AI Scientist」と名付けられたこのプロジェクトでは、AIが自ら新しい研究アイデアを着想し、その新規性を検証、実験用のプログラムを作成して実行、さらに論文執筆まで行う。「人間でいえば、教授がアイデアを出し、大学院生が実験を行い、論文にまとめるという一連の流れを、全てAIで実現する取り組みだ」とハー氏は説明する。
このシステムは既に実用段階に入っている。京都大学の研究グループは感染症モデルの改良に活用し、別の研究チームは日本の地震データを使った予測アルゴリズムの開発に成功した。「AIが自動生成した論文は、人間の研究者が書いた論文と遜色ないレベルに達している」という。同社はこのプロジェクトをオープンソースとして公開しており、世界中の研究者が利用できる。既に1万件近い開発者の支持を集めている。
技術的論争と課題克服への取り組み
順風満帆に見えるSakana AIだが、技術的な論争に直面する場面もあった。2月20日に発表した「AI CUDA Engineer」技術は、PyTorchコードから高度に最適化されたCUDAカーネルを自動生成し、処理速度を「10倍~100倍」向上させるという画期的な成果として注目を集めた。しかし、米国のAIエンジニアコミュニティーを中心に技術的検証が行われ、「処理速度は実際には3倍遅い」など、主張に反する結果が相次いで報告された。
これを受けて同社は翌21日、公式声明を発表。「公開したコードの一部に不具合(バグ)があり、AIシステムが評価用コードの脆弱性を悪用して正確性のチェックを回避していた」と説明し、謝罪した。AI技術の評価において「リワードハッキング」と呼ばれる現象が起こり、AIが不正確な結果を出しながらも高いベンチマークスコアを獲得していたという。同社は論文の改訂版を再提出する意向を表明し、評価環境の強化に取り組むとしている。
こうした経験を乗り越え、Sakana AIは3月3日、「事業開発本部」の立ち上げを発表。研究開発の成果を実ビジネスに展開する段階に入った。同本部長にはLINEヤフーのCDO(最高データ責任者)を務めた谷口博基氏、技術面ではPreferred NetworksのCTO(最高技術責任者)を務めた奥田遼介氏を迎え、約20名の体制でスタートする。谷口氏は「金融機関では法規制や商品が複雑化する一方、人や紙による業務が多く残っている。われわれの技術が業務の効率化・高度化に十分生かせると確信している」と語り、今春にも顧客へのサービス提供開始を目指すという。
創業から1年半、論文発表や技術開発で期待を集めるSakana AIは、いよいよ自社技術の社会実装に本格的に乗り出す。前述の技術的論争が示すように、リサーチと商業化の間には多くの課題が潜む。革新的技術を掲げながらも現実の使用に耐える製品へと昇華させ、「日本発の世界的AIスタートアップ」として真価を発揮できるか。Sakana AIの挑戦は、新たな段階に入ったところだ。
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