小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
これがWeb 4.0? Microsoftが提唱する「Open Agentic Web」を解説 今までのWebサイトは“司書のいない図書館”(4/4 ページ)
この点に関して、Microsoft Research(Microsoftの研究開発部門で、AI、機械学習、経済学、コンピュータサイエンスなど幅広い分野で基礎研究を行う)の研究者らが、興味深い論文を発表している。タイトルはずばり「The Agentic Web(エージェント型経済)」だ。
この論文では、Open Agentic Webが達成できた場合、経済にさまざまな変化が生じると主張。例えば既存の巨大プラットフォームの影響力減少だ。現在、GoogleやAmazon、Facebookなどのプラットフォームが消費者と企業の間に立ち、情報や商品を仲介する代わりに、手数料を徴収している。
しかしWebがエージェント型になれば、消費者のAIエージェントが企業(仲介企業ではなく、消費者が求める最終的な情報や商品を持つ組織)のAIと交渉するため、仲介手数料が不要になると考えられる。そうなれば、プラットフォーム依存のビジネスモデルは見直しが必要となり、AIエージェントを通じて直接顧客とつながる能力がより重要になるだろう。
大手プラットフォームで取り上げてもらわないと、顧客に見つけてもらえないという状況から、優秀なAIサービスがあれば、中小企業でも瞬時に世界中の顧客とマッチング可能な世界へと変化するわけだ。
NetflixやSpotify、サブスクサービスの構造が変わる?
また論文は「マイクロペイメント経済」が到来すると主張している。現在の経済では、月額制や年額制のサブスクリプションモデルが盛んに採用している。NetflixやSpotify、Adobe Creative Cloudなど、そこでは使用頻度に関係なく定額料金を支払うのが一般的だ。しかしOpen Agentic Webが実現されると、この構造が根本的に変わるという。
AIアシスタントが人間に代わって取引を処理するようになることで、従来は「手間がかかりすぎる」として避けられていた小額決済が現実的になる。
例えばいま、NetflixとAmazon Prime Videoの両方に月額料金を支払っているとしよう。しかし将来は、AIエージェントが消費者の視聴パターンを学習し、今夜見たい映画がどちらのサービスにあるかを瞬時に判断して、その都度最適なサービスから作品を購入またはレンタルするようになるかもしれない。月に数百円から数千円の無駄な定額料金を支払う代わりに、実際に消費したコンテンツの分だけを支払うことになる。
この変化は企業にとって収益予測を困難にする一方で、より公平で効率的な価格設定を可能にする。顧客は使わないサービスに対して過剰に支払う必要がなくなり、企業は実際の価値提供に基づいた対価を得られるようになるだろう。
さらにその中では「超個人化された商品・サービス」が実現できるという。現在の商品開発では、できるだけ多くの顧客に受け入れられる「平均的な」製品を作ることに重点が置かれている。しかしAIエージェント同士が直接やりとりできるようになると、この「一律性」の必要性が大幅に減少すると論文は主張している。
論文が挙げる具体例は、新聞記事のカスタマイズだ。従来の新聞記事は、読者が既に知っている背景情報も含めて包括的に書かれている。
しかし将来は、読者のAIエージェントが彼らの既存知識を把握し、新聞社や雑誌社のAIエージェントと協力して、読者がまだ知らない新しい情報だけに焦点を当てたカスタマイズ記事を生成することができるかもしれない。これにより、同じニュースでも読者一人一人が最も効率的に情報を吸収でき、時間を節約可能になる。
この個人化は製造業にも波及すると予想される。例えば旅行業界では、AIアシスタントが顧客の過去の旅行履歴や予算、健康状態、興味関心、現在のストレスレベルまで考慮して、航空会社やホテル、レストラン、アクティビティーのAIエージェントと連携し、完全にオーダーメイドの旅行プランを動的に作成可能になるかもしれない。
これは現在の「パッケージツアー」や「自分で全て手配する個人旅行」という二択を超えた、第三の選択肢を提供することになる。
2025年はインターネットの分水嶺か
もちろん肝心の「オープンなエージェント型Web」がどのような姿になるのか、またそもそもMicrosoftの見込み通り普及するのかも現時点では定かでない以上、これらの主張は予測というよりSFに近いかもしれない。しかし可能性の一つとして、特に経営層にとっては検討に値するものであるはずだ。
少なくとも、Webが1.0から2.0へと移行したときのように、私たちがインターネットから得られるものは大きく変化するに違いない。その分水嶺が2025年だった、と未来の私たちは思うのではないだろうか。
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小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。
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