小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
「Claude Mythos」でセキュリティはどう変わる? 競合「GPT-5.4-Cyber」と比較(3/5 ページ)
生成AIの登場後、セキュリティ業界には奇妙な矛盾が存在してきた。汎用AIモデルにセキュリティ関係の質問をすると、質問者が防御側の人間であっても、「それはハッキングに使える内容なので応答できません」と拒否してきた。脆弱性を分析したい、マルウェアを解析したい、自社の製品を攻撃者の視点でテストしたい──そういった正当な防御業務にすら、過剰な安全装置が働いていた。
GPT-5.4-Cyberはこの過剰拒否がボトルネックになっていると診断し、前述の通り、認定された利用者に対してはバイナリ・リバースエンジニアリングを含む高度な権限を解放する設計を採用した。
提供形態も独特だ。同社のプログラム「Trusted Access for Cyber(TAC)」において、個人利用者は専用サイトで個人情報を確認し、企業はOpenAIの担当者を通じてアクセスの申請を行う。認定された研究者・ベンダーに限って「拒まないAI」を使える仕組みだ。
図書館司書が「この本は危険なので貸せません」と一律に拒否するのをやめ、身分証を提示した専門家には研究書として貸し出す方式、と言えば分かりやすいかもしれない。OpenAIはこの取り組みを、さらに強力な次期モデルの登場に備えるものと位置付けている。
Anthropicの答え「Project Glasswing」
Anthropicの応答は、正反対の方向を向いている。Mythosは主要OSと主要ブラウザなどに対して大量のゼロデイ脆弱性を機械的に発見したと報じられているが、Anthropicは「発見された脆弱性の99%以上はまだパッチが適用されていないため、詳細を開示することは無責任」などとして、一般公開を見送った。能力が強すぎるから出さない、という前例の少ない選択だ。
代わりに提示したのが「Project Glasswing」という共同防衛スキームだ。米Amazon Web Servicesや米Apple、米Microsoftなどを含む12組織が初期パートナーとなり、40組織以上までアクセスを拡張。Mythosの能力を使って各自の製品の脆弱性を発見・修正し、攻撃者が悪用する前にインフラ側で対応する。最大1億ドル分の利用クレジットなども提供するという。
例えて言うなら、新種の強力な「鍵開け技術」を発見した鍵職人組合が、まず全主要メーカーにひそかに鍵の補強を依頼し、それが行き渡った後でしか技術を公開しない、というアプローチだ。
各アプローチの問題点は
それではOpenAIとAnthropicのうち、どちらのアプローチが本当に社会全体の安全を増すのだろうか。残念ながら、少なくとも現時点では判断できない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia AI+に関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
国産AI開発「ラストチャンス」の局面へ ノエトラが「44社が出資・国が最大1兆円支援」の追い風を背に向かう先
-
2
なぜ今? 東芝が「HDD」生産能力を強化 AI時代に狙う「データインフラ需要」の在りか
-
3
「トークン単価は8割下がった。なのに請求額は増えた」――その“見えないAI浪費”の正体
-
4
【レベル16】3D CADモデルを魅力的に見せよ!
-
5
不正アクセスなぜ急増 原因はAIか、それとも…… 専門家の見解は
-
6
「クレームこそ最大の商機」 合成紙大手ユポが半世紀貫く“コト売り”と、AIによる暗黙知継承
-
7
Claude Coworkの「ローカル実行」オプションが廃止 モデル推論、VM共にクラウド実行へ
-
8
国産汎用ロボットによるフィジカルAIのデータ収集で7社が競う、試作機を披露
-
9
ITエンジニアの8割超「AIは人間より優れた判断をする」と認める “でも任せられない”業務とは
-
10
フィジカルAIは「ロボット単体」では成り立たない NTTドコモビジネスが示すIoTからの進化の道筋
SpecialPR
ITmedia AI+ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmedia AI+をフォロー
あなたにおすすめの記事PR