エンタープライズSaaSにもバイブコーディングの波 三井住友系が顧客ごとのカスタマイズに活用 安定性をどう確保?

 三井住友フィナンシャルグループと住友商事が共同で出資し、リース事業などを手掛ける三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)は11月4日、システム開発ツールを提供する米Replitの技術を活用した開発手法「エンタープライズ バイブコーディング」と、それを用いた「企業向けパーソナライズ型SaaS」を発表した。

 SMFLが従来から提供していたクラウドサービスに、バイブコーディングによるカスタマイズ機能を実装して提供するという。企業の業務システムの開発に使うには、AIの利用コストや安全性、品質の担保といった課題が残るバイブコーディングを、なぜ企業向けシステムに統合したのか。また、既存のノーコードツールとは何が違うのだろうか。

リース会社がバイブコーディングサービスを作るまで

 SMFLは約9兆円の営業資産を持つリース会社だ。扱う資産は多様で、どこに何があり、いつ更新や処分をするかを把握するのは難しい。

 転機は2016年、米国の重工業メーカーGEの日本法人、日本GEのリース事業部門を買収し、内製開発の部隊を得たことだ。自社で使って磨いたうえで顧客に届ける「カスタマーゼロ」の文化が、ここから育ったという。2021年に外販を始めた資産管理クラウドサービス「assetforce」は200社超と有償契約を結んでいる。

 一方、このサービスを顧客のさまざまな要望に応じてカスタマイズするのに工数がかかることが課題となっていた。今回の取り組みは、この課題を解決するために始まった。

 個別開発の手間を減らす手段としてSMFLが選んだのが、バイブコーディングツール「Replit」だ。SMFLの今枝哲郎社長は「エンジニアへの指示書などはいらない。『こんな画面にしたい』『こんな業務をもっと使いやすくしたい』と言葉で伝えれば、AIがコードを書き、動くアプリに仕上げてくれる」とその特徴を説明する。

SMFLの今枝哲郎社長|筆者撮影

 自然言語でAIに指示してコードを書かせる「バイブコーディング」は、米OpenAIの共同創業者アンドレイ・カーパシー氏が提唱し、2025年頃から広まった開発スタイルだ。手軽さが関心を集める一方、企業の業務システムの開発に使うには、安全性や品質の担保といった課題が残る。

 そこでSMFLは、assetforceとReplitを接続する開発基盤を構築。同基盤が双方の認証と権限をチェックし、企業がアクセスを許したデータと操作だけを通す。今枝氏は「Replitで作ったさまざまなアプリを当社サービスに安全に接続する、いわばセキュリティゲートが付いた橋のようなもの」だとアピールした。

assetforceとReplitを接続する開発基盤「ADP」|SMFL

「コスト」と「安定」の課題をどう克服するか

 さらにSMFLは、このバイブコーディングサービスを大企業が安全に使い続けられるよう、コスト面、安定性の面での工夫を施したという。

 複数人で大規模なシステムを開発すると、AIに渡す情報(コンテキスト)に同じ設計情報が何度も含まれ、トークンの消費量が膨らみやすい。そこで同社は、コンテキストを作業単位に分け、各開発者の担当作業に必要な情報だけを渡す方式にした。

コンテキスト分割のイメージ|SMFL

 生成AIを企業で利用する上で、同じ指示を与えても毎回同じ結果を返すとは限らないという点も大きな課題だ。「金融や会計を扱うシステムでは、計算結果が正しいこと、その計算根拠を説明できることが欠かせない」と今枝氏は話す。

 SMFLは、生成AIが自社の開発ルールに沿って書いたコードを、品質管理エージェントが独立して検証する仕組みを構築した。検証には、同じ条件なら何度実行しても同じ結果になる「決定論的なテスト」を用いる。最後は必ず同社のエンジニアが確認してからassetforceに実装するものとし、AIに最終判断を委ねないことを開発のポリシーとしているという。

エージェントの検証と人力レビューで、バイブコーディングの課題克服を図る|SMFL

 SMFLは既に、他サービスの開発でエンタープライズバイブコーディングを試行し、大きな成果を得たという。assetforceの改修では、従来手法では6人で約半年かかると見込んでいた開発を、1人・1週間で完了した。また、別の資産管理サービスの改修でも、200を超える画面を持つ償却計算システムを複数のメンバーが機能ごとに並行して開発した結果、要件定義後の開発・テスト期間は従来手法の3分の1に圧縮できる見込みだという。

ノーコードツールの課題を再生産しないか?

 これまでも、個人が短期間でアプリを作れる仕組みとしてノーコード/ローコード開発が注目されたが、開発の属人化や保守性といった課題が残っていた。バイブコーディングは同じ課題を生み出してしまうのではないか。

 この疑問に対して、記者発表会に登壇したReplitのアムジャド・マサドCEOは「バイブコーディングは属人化を減らすと思う」と指摘。従来の開発が属人化しやすかったのは開発者ごとにコーディングのスタイルが異なっていたためで、「(AIにコードを書かせれば)より標準的な形でシステムを作ってくれる」という。

Replitのアムジャド・マサドCEO|筆者撮影

 また、今枝氏は、バイブコーディングによってカスタマイズが容易になることで、システムが顧客ごとに過度にパーソナライズされる懸念があると認め、あくまでassetforceのデフォルト機能を資産管理のスタンダードとして提案しつつ、一部のカスタマイズ需要を取り込む形で運営するとした。コーディングにかかる工数が減る分、要件定義の重要性が高まるとし、現場で顧客と対話しながらアプリを作るFDE(Forward Deployed Engineer)の育成を進めているという。

 SMFLは、今回発表したサービスを含むデジタルサービスの売上規模を5年間で10倍に伸ばす目標を掲げる。今枝氏は、伝統的なリース事業とそこから生まれたクラウドサービス事業に、さらにAIの潮流を取り入れ、「組み合わせの妙を作っていきたい」と意気込んだ。

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この記事の著者

編集:村田知己
編集:村田知己

ITmedia AI+ 編集記者。市場調査会社でのエンジニア職を経て、2022年アイティメディア入社。キーマンズネット編集部、社内のデータ分析基盤構築担当、ITmedia エンタープライズ編集部を経て現職。

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