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同じアドビのPDF技術でも結構違うe-Day

» 2004年02月10日 22時52分 公開
[浅井英二,ITmedia]

 確定申告の季節がやってきた。

 先週、ほかの利用者のデータが印刷されるという不具合があり、サービスを一時停止していた国税庁の「所得税の確定申告書作成コーナー」も再開されたようだ。

 お粗末なのはもちろんだが、それ以上に考えさせられた。このコーナーは、Webブラウザの画面の指示に従って金額などのデータを入力すると、確定申告書が作られるというものだが、あくまでも計算の手間を省き、清書してくれるだけなのだ。普段われわれが見たり、聞いたり、そして書いたりしている情報技術(IT)とのギャップを思い知らされる。

 利用者が入力したデータを基に最終的な書類を作成するところには、アドビシステムズのPDF技術が使われているのだが、彼らの提供している技術を幾つか組み合わせれば、もっと手続きは簡単に済み、コスト削減にもつながるはずなのに……。

 「そりゃたいへんだ」

 米Adobe Systemsで企業および官公庁向けのドキュメントソリューションを担当する製品マーケティングディレクター、ショーン・カドゥー氏にこの話をしてみた。彼は、2月12日に東京で開催される「Adobe Intelligent Document Platform DAY 2004」のために来日している。

 「米国ではIRS(内国歳入庁)が事業者の申告手続きを電子化するのにわれわれの技術を採用しており、利用者はWebサイトにアクセスし、PDFの電子フォームにデータを入力していけば、そのまま電子的に申告が完了する」とガドゥー氏。CD-ROMなどのメディアでも電子フォームを配布していて、メールでの申告も可能。データもXMLを介してバックエンドシステムに渡され、オンラインのときと同様に処理されるという。

 同じアドビのPDF技術を使っていても、やっていることは日米で結構違う。分かりやすく言えば、アドビの電子フォーム技術そのものに幾つかの側面があり、その利用度に違いがあるのだ。

 彼らが「Intelligent Document」と呼ぶ技術には、よく知られているPDFの忠実再現機能だけでなく、ビジネスロジックを埋め込んで計算させたり、入力されたデータが正しいかをチェックするものもある。また、XMLによってデータを受け取ったり、引き渡したりする技術もある。このXML関連技術の多くは、2002年春にアクセリオ(旧ジェットフォーム)買収によって手に入れたもの。ちなみにガトゥー氏は、アクセリオの副社長を務めていた。

 しかも、無償配布のAdobe Readerでも、PDFの電子フォームをローカルに保存できたり、電子署名を付けたり、複数の人で文書を共有しながらコラボレーションできるよう「Adobe Document Server for Reader Extensions」なる製品を用意している。

 これは、本来、有償のクライアント製品でなければ、使えないようなフル機能を無償のAdobe Readerでも利用できるようにするもの。機能をオンにするものというよりは、ロックを解除してくれるものに近いだろう。企業や官公庁がパートナー企業や利用者らに有償のクライアント製品をバラ撒くよりはずっとスマートなやり方だ。利用者からお金を集めるよりは、企業や官公庁からまとめてライセンスフィーをいただく方が簡単だし、Adobe Readerの普及にも拍車がかかる。

 XMLの機能も使わない手はない。バックエンドシステムにそのままデータが引き渡され、プロセスが自動化されるのもいいが、XMLベースのWebサービスによってほかのシステムとも連携できれば、さらにありがたい。

 ガトゥー氏は、J2EEプラットフォームのコンポーネントとして稼動するようにすべてのサーバ製品を書き換えていることも明かす。マルチプラットフォームへの対応や製品開発の迅速化という狙いもあるが、例えば、WebSphereで動作するとなれば、IBMミドルウェアとのインテグレーションも加速されるに違いない。アドビは2月初め、日本アイ・ビー・エムとの協業第一弾を発表したばかりだ。

 たまたま今年、「住宅借入金等特別控除」(いわゆる住宅ローン減税)で、ささやかな還付金を受け取ることになったのだが、源泉徴収票からはじまって、家屋の登記簿謄本、請負契約書、住民票、借入金の年末残高証明書など、あちこちからかき集めなければならない。十数年前にやはり一度やったことがあるのだが、何も変わっていない。どれも電子的なデータとしてどこかにあるのだから、やり方はほかにあるはずだ……。

 PDFをプリンタで印刷し、ハンコを押すのはそろそろヤメにしよう。

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