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フラットディスプレイの色調表現は、何を目指すべきか小寺信良:CEATEC Preview(2/3 ページ)

» 2004年10月04日 11時24分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 だがこれはなにも色空間を増やすためではなく、複数の素材から成る映像合成の演算を行なう際に、オーバーサンプリングして余裕を持たせておかないと演算結果が頭打ちになってしまい、画質が落ちるからだ。最終的な出力は、当然10bitで出力される。そうじゃないと、録画できる機材がない。

 つまり現在の放送機材では10bitカラー、すなわち10億7374万1824色でフルカラーが表現されていることになる。ただしこれはあくまでも理論上のデジタルRGBフル帯域、つまり4:4:4での話であって、今さらこんなこと言うのもアレだが、ホントは映像の色数というのは、単純にbit数からは勘定できない。

 実際にはここから色の解像度が減らされて、4:2:2というデジタルコンポーネント方式にマトリックス変換される。したがって、色の数としてはこれよりも減っていることになる。実際にそれが何色になるかというと、すまん、ここからは行列の計算式が必要になるため、筆者のアタマでは無理。

 さらにこれがHDCAMに収録される際には、本来1920あるはずのYの水平画素数は1440に減り、960あるはずのB-Y/R-Yの水平画素数はそれぞれ480に減らされて記録される。DVCPRO HDでも同様に、Yは1280、B-Y/R-Yは640となる。

 そしてこれがデジタル放送波になる段階でMPEG-2にエンコードされるため、4:2:2から4:2:0となり、色の解像度はさらに半分になっている(アナログ放送ではDA変換されてアナログ信号になるため、何bit何色という言い方は意味を持たない)。

 そう考えると現在のデジタル放送技術をもってしても、元々10bitカラーの原理的色数である10億7374万1824色なんて、全然表現できていないということになる。感覚的には、そうやって解像度とかいじっていったら、結局8bitカラーとそんなに変わんないか、ヘタすればもっと悪くなってるんじゃないかと思う。

 コンシューマーのテレビが36億2000万色とか57億5000万色とかゴーカイなケタ数の表示色を誇示しているが、この値を信じるならば、元の信号を演算により拡張し、本当はあったはずの中間色を予測して作り出しているということになる。

新しいパネル技術

 デジタル的に信号をプロセスするのではなく、パネルそのものに新方式を導入して、色表現のレンジを広げて行こうとする試みも出てきている。

 ソニーが「QUALIA 005」で採用した「トリルミナス」は、同じ液晶ディスプレイでも、従来の冷陰極管に代わってRGB3色のLEDをバックライトとして使うという方式である。これにより、NTSCで規定する色範囲よりもさらに広い範囲の色表現が可能になっている。

 この実機を見てきたが、特に濃い赤の表現は、今までテレビでは見たことがない発色だ。それもそのはずで、トリルミナスで表示可能な領域の赤い部分は、NTSCの色範囲を突破しているのである。

 技術的には素晴らしいが、映像を作る側に取っては、扱いが難しい方式だ。というのも、現在編集スタジオで使用しているマスタモニタでも表現できない色が実際に出てしまうというのは、もう“制作者の責任範囲外”ということになるからである。

 LEDバックライトは、このまま順調に技術革新が進めば、現在の冷陰極管に代わる方式となると言われている。そうなったら、NTSCの規格自体も見直さなければならなくなるかもしれない。

 先週の9月28日、東芝の映像事業戦略説明会で展示された、SED方式の試作モデルも見てきた。バックライトではなく、電子を蛍光体にぶつけて発光させるSEDは、発光原理がブラウン管と同じであるため、輝度や発色などがブラウン管相当であるとされてきた。

 実際に見たところ、確かにその表現は妥当で、よく見慣れたブラウン管の発色に近い、バランスの取れた表示という印象を持った。

東芝の映像事業戦略説明会で披露された、36インチSEDディスプレイ

 表示画面いっぱいに電子放出部を画素数分だけ埋め込むというこの方式は、モニタを薄型化しようとする発想としては、非常に原始的なものだ。だがそれを実行するとなると、エラく大変なことになる。なんせ画素数分というぐらいだから、1080iフルHD解像度ならば、207万3600個も埋める事になるのだ。「すいません、テレビの電子銃を207万個買っていいですか」と言ったら、たいていの会社では怒られる。

 キヤノンはこの方式の開発に1986年から着手したという。86年とかサラッと書いたが、今から18年も前の話である。この年パソコン業界では、MS-DOS Ver3.2が発売されたりしていたぐらい昔である。

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