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速報性とジャーナリズム〜ネットとマスメディア西正(2/2 ページ)

» 2005年05月26日 17時22分 公開
[西正,ITmedia]
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 そういう点で言えば、韓国のオーマイニュース(OhmyNews)をどう見るかという点では意見が分かれるところだ。2003年に発足したオーマイニュースは、「市民ジャーナリズム」であると自任しており、サイトに登録した人は誰もが「記者」になれる仕組みを取っている。1日当たり約200本の記事を掲載しており、その大半の記事を書いているのが、このサイトに登録している3万人を超える“市民ジャーナリスト”たちである。

 その性格上、どうしても、反企業、反政府、反米となりがちな面は否めないが、かえって、そこからは市民ジャーナリストの生の反応が伺えるということで、韓国内のどの新聞にも負けないだけの影響力を有していると評価されている。

 しかしながら、オーマイニュースの場合、進歩派と称された盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の当選に一役買ったという事実がある。韓国内での影響力の強さを内外に示した形ではあるが、逆に言えば、ジャーナリズムというよりも、政治運動の一環として使われたと考えられないことはない。

 盧大統領が選挙後の最初のインタビューをオーマイニュースに行わせたという事実についても評価の分かれるところだが、マスメディアが持つジャーナリズム感からすれば、不偏不党という意識が欠如し過ぎてはいないかという疑問も持たざる得ないだろう。

 ただ、日本国内における、ネット情報とジャーナリズム論の対立構造と大きく違っていることは、オーマイニュースの記者は好きなことを書けるとはいっても、実名を記載することが義務づけられている点だ。

 もちろん、日本国内のネット情報についても、情報発信者の実名が付されているものは、匿名の「言いたい放題」とは一線を画している。オーマイニュースでは、投稿者が掲載した内容に全責任を負うことになると取り決めている。そうした約束の上で投稿されてきた原稿を、プロの編集者がチェックするという作業も行っている。そのため、名誉毀損などで訴えられるようなケースは殆ど起こらないという。

 「ネット情報にジャーナリズムはない」と言い切る人たちにとっても、オーマイニュースのようなものが日本にも登場してくる可能性を否定してはいない。

ネットの危険な使われ方

 日本のマスメディアは、基本的に不偏不党のスタンスを取っている。逆に、ネットの世界では、ワールドワイドのレベルで、不偏不党である必要が求められることはない。そこにネットの良さと危険性が同居する構図が生まれることになる。人権侵害に及ぶような使われ方は罰せられることになるが、思想的には非常に大きな自由が保障されている。

 典型的な例で言えば、イスラム系の色々な過激派は皆、インターネットでメッセージを発信している。そこでは、人間の首を切り落とす映像までが流されている。その場で撮影して、その場で配信されるのだから、速報性が高いのは当然である。これは内外の文化の違いだと言って済ませられる問題ではない。

 仮に、日本国内においてそうしたネット情報が発信されても、サイトなどはいくらでも作れる上に、次から次へと“発信者”が移動していくことも可能なのだから、それを完全に管理することはほぼ不可能だ。実際、そうした情報の流し方は国内でも過去において行われている。

 こうした話は本来、特定の思想団体の主張であって、ネット情報の速報性と、ジャーナリズムとの違いを論ずる上で、無縁な話に思えるかもしれない。だが、ネット上の情報も、速報性を重視する余り、提供した情報が引き起こしうる混乱の可能性については軽視されがちなことは否めないだろう。そこが、情報を伝えるに当たり、一定の見識をもってその情報を流すかどうかを判断するマスメディアとの大きな違いを生むポイントとして、無視し得ないところだろう。

 また、本当に危険なネットの使われ方は、自らが事件・事故を引き起こし、ある特定の情報発信源へのアクセス数を高め、衆人の注目を集めようとする者・団体が現れてくるケースである。そうした方法で自らへのアクセス数を増やすことで、そこを発信源として、新たな世論が形成されていってしまう危険性がある。

 「1対N」であると言われているテレビや新聞と違って、「1対1」が原則であった通信の世界では、これまで公正中立であるべきとの考え方は必要とされてこなかった。

 ネット情報の速報性は高く評価されるべきである。しかし、全ての情報をネットからだけ取るのではなく、その情報に関わる新聞やテレビなどといった既存のジャーナリズムの声にも耳を傾けていくべきだろう。双方に一長一短がある以上、両方をうまく使いこなすことが、本当のメディアリテラシーだと筆者は考える。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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