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楽天はなぜWeb2.0のプラットフォームになれないのか(上)ネットベンチャー3.0【第6回】(1/3 ページ)

» 2006年09月01日 10時45分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]

 前回、ロングテールによるマッチングがインフラ化しつつあるという話を書いた。Googleというきわめてすぐれた検索エンジンが登場したことによって、検索エンジン経由で企業と企業、個人と企業、個人と個人が新たな出会いを作り出すことができるようになった。いまや検索エンジンの存在なしにはマッチングは考えられなくなっており、その意味で検索エンジンはロングテールによるマッチングのインフラ=プラットフォームになっているのである。

日本最大クラスのCGMコンテンツを持つ楽天

 ここで気をつけなければならないのは、新たなマッチングができあがっているからといって、それがイコールWeb2.0とは言い切れないということだ。たとえば楽天。同社の三木谷浩史会長は2006年8月18日、2006年6月中間連結決算の記者会見で、Web2.0への方向性を打ち出した。@ITの垣内郁栄記者が書いた記事には、こう書かれている。

三木谷氏は「Web 2.0という言葉を使うか迷った」としながらも、「Web 2.0では、マスによる広告だけでなく、ユーザーがほかの人の意見を聞いて商品を購入することがどんどん起きている」と説明。そのうえで、ユーザーが商品を評価する楽天市場の「みんなのお買い物レビュー」が641万件に達することや、宿泊施設をレビューする楽天トラベルの「お客さまの声」が107万件あることを挙げて、「実は楽天グループは1500万件以上のユーザー発信型コンテンツを蓄積、日本最大規模」と説明した。

 三木谷氏は「みんなのお買い物レビュー」とブログサービスの「楽天広場ブログ」のアフィリエイトが広がっていることも説明。「楽天グループのユーザー発信型コンテンツをさらに増やして、ユーザーの購入によりつながるようにする」と話した。今秋には「みんなのお買い物レビュー」の刷新も計画している。

この時の決算説明会資料(PDFドキュメント)には、この記事にあるような数字が具体的に示されている。確かに数字だけを見れば、日本最大規模のCGMコンテンツを蓄積しているのは間違いないだろう。楽天市場というショッピングモールによって、小規模な店舗が全国の顧客と出会い、そしてそこでやりとりされた商品評価、店舗評価などの書き込みがCGMという形でコンテンツ化していく――それは概念的にみれば、まさしくWeb2.0のパラダイムではある。

Web2.0ビジネスへの2本の道

 とはいえ、じゃあ楽天がWeb2.0企業かといえば、決してそうは言えないところに「Web2.0」という概念の難しさというか、言葉に定義しにくい隔靴掻痒な曖昧さがあるのだ。連載の前回で、Web2.0のビジネスはロングテールによるマッチングからスタートし、それがコミュニティー、極大化されたデータベースへと進んでいくケースが多いということを書いた。正確にはこの進化モデルには2種類ある。(1)すでに提供されたプラットフォームの上でプラットフォーム提供者とWin-Winの関係を築きながら、Web2.0的な仕組みを利用していくという進化を選ぶか、(2)それともプラットフォームとしての進化を選ぶのか、である。

 前者の進化を象徴するのは、マッシュアップである。GoogleやAmazon、はてななどのプラットフォームが提供しているAPIを利用し、そのプラットフォームの上で新たなビジネスを作り出す。Googleの地図上で郵便番号を自動的に表示したり、あるいはその地域に関することを書いているブログへのリンクを一覧表示したり、といったさまざまなサービスが生まれている。あるいは、前回述べたように地方の店や中小企業などがみずからロングテールとなり、顧客の数は圧倒的に少ないような単一商品を全国の顧客に販売するため、検索エンジンというプラットフォームを利用して販売促進を行っていくというモデルもある。

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