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ベンチャーキャピタルとの付き合い方金融・経済コラム

» 2006年09月11日 10時00分 公開
[保田隆明,ITmedia]

 最近、ベンチャー経営者の友人や知り合いから「ベンチャーキャピタルのA社とB社の違いを教えて欲しい」「銀行系VCと独立系VC、どちらがいいのだろう」というような相談を受けることが増えてきました。

 ベンチャーキャピタルは略してVCと呼ばれることも多いので、むしろその響きの方が聞き慣れている人も多いかもしれませんが、先に結論的なことを言ってしまうと、どのVCもさほど変わらないでしょう。経営者にとっては、ひとたび出資を受け入れてしまえば、そのお金を活用していかに事業を拡大していくかの方が圧倒的に重要なので、そのお金の出所うんぬんはほどんど関係なくなるでしょう。端的には、お金には色がない、ということになります。

 しかし、VCとの付き合い方にはいくつか注意すべき点があります。今回から何度かに分けてそのあたりを触れてみたいと思います。初回は銀行系VCに対する間違った幻想です。

銀行系VCに対する間違った幻想

 銀行系VCだと、投資もしてくれるし、本体の銀行からの融資もしてもらえるので、投融資一体型の資金調達が可能となり、非常に便利というような間違った考えを持ってしまっている経営者の方が散見されます。これは非常に危険です。個人的には銀行系VCというものが世の中に存在していること事態がおかしいと私は思っているのですが、そもそも銀行とVCは全く正反対の立場にあります。前者はリスクを取らない存在、後者はリスクを取ってナンボの世界。

 銀行が融資をする際に重視するのは、融資した金額がキチンと返済されるかどうか、そのために安定した収益が見込める事業があるかです。当たった場合はでかいけど、外れると大損、みたいな事業には興味を示しません。一方、VCが興味を示すのはそういうドリームチャンス的事業です。もちろんVCにとっても安定収益事業が存在することはもちろんプラスにはなりますが、それが最重要という銀行とは立場が異なります。

 銀行とVCでは、同じ企業を評価する場合も評価指標が異なります。VCが評価をした企業に対して銀行がノーと言うケースは少なくありません。したがって、銀行系VCからの出資を受けると銀行からの融資も受けやすいというのは幻想でしかありません。逆に言えば、「融資も受けやすいですよ」というトークを繰り広げている銀行系VCが存在するならば、そういうVCには近づかない方がいいでしょう。

 「そんなことぐらいなら、大した問題ではない」という声も聞こえてきそうですが、では、銀行系VCと銀行本体からの投融資一体型の資金を受け入れることの悲劇についてお話しましょう。ベンチャー企業側の事業経営がうまく行っている場合は当然問題も悲劇も起こりません。事業がうまく行かなくなってくると起こるのです。

 ベンチャー企業を経営していると誰でも経験することですが、想定外の問題が発生し、一時的に事業不振に陥ることがあります。そしてそんな時に限って、大きな資金支出があったりするものです。しかし、経営者側はこの経営不振が一時的なものであり、資金繰りさえ問題なければ難局を乗り越えられるという自信があります。一方、こんな時に誰よりも真っ先にビクビクしだすのは銀行です。彼らの頭の中では、「融資の返済が滞ったらどうしよう」という心配で一杯になります。そして、「早く融資金額を返済してもらわないと」と考えるようになります。つまり、真っ先に資金を引き上げようとする存在なわけです。

 実際には資金を引き上げるという行為は最終手段であり、よく行われるのは再融資を行わないというものです。銀行からお金を借りるときには、例えば1年間の融資というものであれば、1年後に返済し、また再度融資を受ける(ロールオーバー)というのが一般的です。個人の住宅ローンの場合であれば、返済してしまえば再度借り替えることはありませんが、企業経営の場合はいったん借りたお金は事業に使ってしまい、その事業から多額の収益でも出ない限りは借りたお金は満期が来るたびに借り替えていくことが一般的です。この借り替えを行わない、または再融資時には以前よりも少ない金額で融資を行うことで銀行は資金を引き上げていくことが一般的です。

 ベンチャーキャピタルの場合は企業に投資をしていますので、資金引き上げという発想はあまりありません。したがって、企業経営が一時的に不振に陥った場合はむしろ企業側と一緒になって、どうやってこの難局を打開しようかと考えて協力することになります。

 さて、企業とVCが一緒になって走り回り、資金繰りさえ問題なければ事業を回復できそうなところまで何とか持っていきます。しかし、そんな頃に銀行の融資の借り換え時期が到来します。そして、不安でしょうがない銀行が「すいません、再融資は見送ります」と言ってきたりします。経営者は一生懸命銀行に資金提供さえ問題なければ事業再建は可能だと訴えるのですが、銀行は聞く耳を持ちません。そこで、経営者は銀行系VCの担当者に「あなたの会社の親銀行じゃないですか? 銀行の担当者を説得してくださいよ」と詰め寄ります。

 しかし、なんと、このような局面では銀行系VCの担当者は何の威力も発揮することはできません。「すいません、銀行とVCでは企業に対する評価基準が違うもので、私たちにはどうにもできないのです」と情けない言葉を口にするだけでしょう。今までは、銀行系VCの最大のメリットは銀行とのパイプがあることと認識していた経営者にしてみると、完全に梯子をはずされたような感覚に陥るでしょう。

 「それならどうして最初に投資をしてくれたときに、投融資一体型の理想的な資金調達が可能みたいなことを言ったのですか?!」と経営者は憤ります。それに対しては、銀行系VC担当者が「そんなこと言いましたっけ?」とシラを切ったり……。挙句には経営者は、銀行系VCと銀行がウラで結託しているのではないかという不信感を募らせたり……。

 たとえ話が長くなりましたが、とどのつまりは、VCはVCであり、銀行は銀行。両社は全く異なるものであり、銀行系VCだと融資も楽という幻想を持ってしまうと後で上記のような悲劇に直面するかもしれません。

 銀行系VCには銀行本体から出向して来ている人たちもいます。銀行本体ではベンチャー企業を評価する体系ができていないので、そのために勉強して来い、というのが出向の理由みたいです。企業経営者からしてみると、真剣に事業経営して、資金繰り対策をし、挙句に「勉強」身分の人たちに翻弄されるなんて、悲劇以外の何者でもありませんよね。

 ということで、銀行系VCと出資受け入れについて話す場合は、そのVCについている銀行の看板は最初から無視しておいた方がいいと思います。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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