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ソーシャルニュースサイトを株式投資に応用できないものか金融・経済コラム

» 2006年08月28日 10時00分 公開
[保田隆明,ITmedia]

 アメリカのソーシャルニュースサイトdigg.comの盛り上がりを受けて、日本でも最近いくつかの同種のサービスが立ち上がっているようです。いろんなやニュースやブログエントリーに対する感想(二次情報)を共有するサービスですが、広義の意味では、感想共有サービスという形でまとめることができると思います。

 さて、このようなサービスの登場を受けて思ったことは

 「株式投資における感想共有サービスができないものか」

 ということでした。株式市場では、株価が上がると思って買う人、下がると思って売る人が存在し売買が成立します。つい忘れがちなことですが、全く正反対の思いを抱く人が存在しないと取引は成り立ちません。売買が成立するときには、「あ、世の中の誰かは自分と全く逆のことを考えているんだな」ということは分かりますが、一方で、他のみんながその株価がどれぐらいの値段になると思っているのかに関してはあまり情報がありません。

 もちろん、各人が「これぐらいまで上がる(下がる)だろう」という値段に株価が達したときには、売る(買う)という行為をするので、その時点で「なるほど、その値段をターゲットとしていたのか」ということが分かります。しかしそれもその人の売買を隣で見ていないことには分からないことです。

 そんな行為の総意として株価の日々の動きが存在するわけですが、株式市場に参加する投資家が各銘柄の売買という行動をするだけでなく、各銘柄の株価がどれぐらいになると思うか、また、どれぐらいの期間でその株価に到達すると思うかという感想を共有できるとどういうインパクトを与えるだろうかと想像してみました。

 たとえばソニーという銘柄に関して、現在の株価が5000円だったとして、ある人は株価が6000円になると思っているとします。また別の人は4000円になると思っているとします。それぞれ、買う、売る(または空売り)という行為をすると思われますが、買った人が次に考えるのは「いつ売ろう」ということなので、できれば他の人たちはいつ売るのかを知りたいと思うでしょう。

 そんな時に投資家同士で「この株価はここまでいく」という感想が共有されるようなサービスがあれば非常に便利ではないかと思ったのです。Yahoo!ファイナンスなどの株価掲示板でたまに「株価は○円になる!」というような記述もありますが、信憑性という意味では乏しいといわざるを得ません。

 もちろん、株価が6000円になると思った人が2人いたとして、1人は1カ月後に、もう1人は1年後にその株価に到達すると思っていた場合、その2人の同じ6000円というターゲット株価は全く違う意味合いを持ちます。したがって、当然のことですが、時間軸も重要になります。

 このように、ある銘柄に関するターゲット株価&期間に関する感想共有サービスが登場したとすると、その総意を集めると、また別の株価チャート、つまり、目標株価に関する株価チャートができることになります。この目標株価チャートと実際の株価チャートを比較し、その差を利用して株式投資をしようとする人が当然出てくるでしょう。まさに、日経平均先物と日経平均現物の差を利用して売買している人たちが存在するのと同じように。

 ただ、日経平均先物と日経平均現物の株価チャートを見てみると分かりやすいのですが、本来であれば別のものになるであろうと思われる2つのチャートですが、実はそれほど大きな差異は存在しないことが多いです。これは非常に不思議ではありますが、当然のことでもあります。投資家は将来の株価を予想して売買します。確かに現物と先物ではタイムラグが存在しますが、一方、先物と言ってもたとえば3カ月先物の場合は、そのタイムラグは3カ月しか存在しません。

 株式投資家にとっての「将来の株価を予想して」と言った場合、その将来が3年や5年を見越している場合、今と3カ月後の株価というのは両方ともほぼ同じ、そのタイムラグは誤差の範囲で済んでしまうかもしれません。また、株価が先のことを予測するものであれば、日経平均の現物指数は、先物指数に大きく影響を受けるのが自然でしょう。

 なお、日経平均先物の場合は、それに投資をするプレーヤー(投資家)も多数存在しますので、市場の総意を表していると言えます。また現物投資に対するヘッジとして先物投資を行うこともあるために、実際に売買をするので、株価(先物指数)としてきちんとした数値が現れます。

 一方、株価に関する感想共有サイトの場合は、情報量が乏しいとその感想の信憑性が乏しくなります。そのためにも、たくさんの人に感想をそこに書きたいと思わせる何らかのインセンティブが必要となります。日経平均先物の場合はヘッジをするために実際に先物を買う(売る)という行為が伴いますので、自ずとインセンティブは存在します。しかし、株価に対する感想共有サイトの場合はそこまで大きなインセンティブは存在しません。

 では、株価に対する感想共有サイトが成り立たないかというと、決してそうではないと思っています。それは、目に見える形でのインセンティブが存在しなくとも発展を見せているソーシャルニュースサイトを見れば、インセンティブがまた別の形で存在するのだろうと想像されます。

 過去の株価の動きから株価を自動的に予測しようというサイトなり、技術なりへの興味は以前より高いようですが、このような集合の叡智としての株価予測サイトはまだほとんど話を聞きません。もちろん突き詰めていけば、単なる全銘柄の先物予測に他ならないのですが、このような株価に対する感想共有サイトが存在するとそれはそれで、また株式投資にある一定の影響を及ぼすことができるのではないでしょうか? 日経平均先物が日経平均現物に影響を及ぼすのと同じように。そんなサイト、サービス登場する日はくるのでしょうか?

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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