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» 2006年07月10日 09時50分 公開

金融・経済コラム:株式市場とWeb2.0の関係

経済番組コメンテーターであり、M&Aアドバイザリーや財務コンサルティングを手がける保田隆明氏がIT業界を金融・経済面から語る連載コラム。今回は株式市場に起きているWeb2.0的事象についてです。

[保田隆明,ITmedia]

 最近はIT関連メディアのみならず、ビジネス雑誌や新聞などでも「Web2.0」という言葉をよく目にするようになりました。Web2.0という言葉が独り歩きしている、または、その言葉そのものが陳腐化しているという指摘もあるようですが、その言葉の意味する概念を伝える1つのキーワードとして定着しているので、このコラムではWeb2.0という言葉をそのまま用いたいと思います。

 Web2.0とは何だと言うときに、「Web2.0をつい最近知りました」というビジネスパーソンも含めて理解されていることは、ロングテールやCGM(consumer generated media)に代表される参加者による参加型サービスということだと思います。

 一方、参加者による参加型サービスゆえに成り立つビジネスというので真っ先に思い浮かぶのは株式投資です。そして、その株式投資でも、最近は個人投資家の参入増加によるロングテールの影響をドンドン受けていると思います。

 Web2.0で言うところのロングテールでよく引き合いに出されるのは、GoogleのAdSenseだったり、または、Amazonでは、ベストセラーではない本や本屋では見つからないような本も結構たくさん売れているというものです。つまり、1つ1つの販売量はたいしたものないもののそれを積み上げると実はすごいんだ、というものです。

 株式投資の場合、近年のオンライン証券の台頭により、インターネットやモバイルなど個人が気軽に株式売買を行う環境が整い、また、その売買手数料が大幅に引き下げられたおかげで、個人投資家が増加し、また、売買回数も飛躍的に伸びました。個人投資家が持っている投資金額は万円単位ですので、個別単位では規模的にはたいしたことありませんが、市場の裾野が広がり昨年からは株式投資は一種のブームのようになっていますので、ロングテール的な動きとして興味深いものだと思います。

 Web2.0に関して、もう1つ別個の議論として存在したのがWebとメディアの融合、または、Webは既存メディアを殺すか、という議論でした。つまり、Webで展開されるWeb2.0的なサービスなりコンテンツの魅力が大きすぎて既存メディアが脅かされる、もしくは融合してより魅力的なものになっていくだろうというものでした。当初こそはウェブが既存メディアを侵食するようなトークが多くありましたが、最近ではむしろ自然と融合してきているような気もします。

 一方の、株式投資に関しても同じような動きがあります。それは、「プロの投資家」対「個人投資家」、または、市場における個人投資家に立ち位置です。

 実は、去年後半から今年の前半までは、市場が個人投資家の動向に翻弄されるシーンが数多くありました。「プロの投資家」が下がると思っていた株価が下がらなくて、「どうしてだろう?」と調べてみると、個人投資家が買っていた、というようなケースです。

 同じ1つの売買注文でも、機関投資家の注文は億円単位、一方の個人投資家の注文は万円単位ですので、今までは同じ銘柄を機関投資家が売って個人が買うと自ずと株価は下がって個人投資家は損をするという構図でした。つまり、株価に対する影響度という意味では、この両者はゾウとアリぐらいの違いがあったわけです。しかし、アリの大群がゾウに勝つ場面がいくつか出てきたわけです。

 今までその存在すら認識しなかったアリにやられてしまうわけですので、ゾウは大混乱。しばらくは、「個人投資家は何を考えているのだろう? 売るだろうか? 買うだろうか?」と、ゾウが一生懸命アリの考えていることを推測しようという行動が見受けられました。それは見ていると痛快でもありましたが、一方では、ゾウが自らの行動基準が判らなくなった時でもありましたので、その結果、市場が混乱する、株価が乱高下するような場面が多々見られるようになってきました。

 最近でこそ、ライブドアショック後の傷がなかなか癒えない個人投資家の影響力が弱まって、やっとゾウの不安も落ち着いてきました。しかし、一度空いた風穴はふさぐことができないように、今までの機関投資家対個人投資家、そして個人投資家の立ち位置というものは明らかに変化しました。それは、市場が、個人投資家の集合知が無視できなくなってきているわけです。

 しかし、知のオープンソースという意味では株式市場ではまだまだ環境が整備されていません。証券会社の株式アナリストのリポートやコメントを一般の個人投資家が知ることはまだまだ容易ではありませんし、四六時中株式投資のことを考え、それでメシを食べているセールスやアナリスト間で共有されているような情報は決して個人投資家が入手することはできません。

 また、証券会社のセールス担当者は機関投資家と頻繁に連絡を取り、今はこの銘柄がいいですよ、と頻繁に会話をし、また、アナリストも機関投資家を訪問して自らの株価に対する見方を話すわけです。やはりリポートでは書ききれない情報も山ほどあるわけで、実際に会って会話をしたときに提供できる情報量は膨大です。そして、企業はIR活動と称して機関投資家をせっせと訪問し、自社の事業展開について丁寧に説明をします。しかし、個人投資家にはなかなかこういう機会は提供されません。

 つまり、「まだ、そうは言っても個人投資家は素人」という考えが蔓延しており、「素人にはプロの知をオープンにする必要ないでしょ」という考えがまだまかり通っています。また、一度はアリの大群の攻撃でぐらついたゾウにしてみると、知のオープンソース化が進み、大量の個人投資家が「プロの知」を共有できるようになり、またあの忌々しい攻撃がなされるとイヤですので、知のオープンソース化には反対でしょう。

 株式投資は、ある種情報合戦でもあります。今後、どれぐらい知のオープンソース化が進んでいくのか、そこにアリとしての個人投資家の運命もかかってくると思います。ネットとメディアの融合に隠れてあまり議論されませんが、金融とネットの融合もすごいスピードで進んでおり、大量のアリを生み出したのがインターネットのお陰であるならば、株式投資での知のオープンソース化を進めるのもインターネット企業なのだろうなと思います。

 インターネット企業の事業評価を語る上では、最近は「どんなWeb2.0的なサービスを提供しているか」が注目されますが、ピュアなネット型Web2.0サービスのみならず、他の業種においてWeb2.0的革新を起こすことができる可能性がある企業についてももっと関心が高まってもいいのかなと思っています。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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