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» 2006年10月25日 09時30分 UPDATE

株高を維持するTBSの楽天に対する牛歩戦術

ライブドア旧経営陣のニッポン放送株取得と並んで、ネット企業による放送局の株式取得として話題となった楽天のTBS株式取得から1年、未だに見えない成果はなにを意味しているのでしょうか。

[保田隆明,ITmedia]

 楽天がTBS株式を20%弱取得してから1年が経ちます。放送とインターネットの連携を実現するために真摯に協議・検討をする場として「業務提携委員会」を設け、議論を重ねている「はず」ですが、この1年間特に目立った成果物があったようには見受けられません。

 メディアとインターネットとの融合が叫ばれて久しくなっている時勢ではありますが、テレビ局の大きな収益は依然として広告収入です。広告収入は、企業の広告出稿量と連動します。つまり、景気に左右されます。したがって、一般的にテレビ業界の収益ひいては株価の動きは、景気が良くなりそうな局面では上がり、悪くなりそうな局面では下がるという比較的単純な動きをします。

 そのような景気連動型株のテレビ局ですが、その中での競合優位性によって各企業の株価パフォーマンスに差が出てきます。日本のテレビ業界では、キー局5社の陣取り合戦ですので、一般低には視聴率の高い企業の株価が高くなります。

 そんな中、TBSの株価は楽天が大量に株式を取得した直後は急進し、その後は徐々に下がってきてはいるものの、いまだ過去5年間の同社の株価推移と比較してみても高値圏にあります。キー局5社との比較においても、TBSはもっとも株価パフォーマンスが良い企業です。

民放キー5局の株価パフォーマンス比較 民放キー5局の株価パフォーマンス比較(昨年8月以降)出展:livedoorファイナンス

 予想PERでみてみますと、TBSは38.7倍であり、他の4社の平均予想PERが約27倍ですので、株価では完全にTBSの一人勝ちの様相です。TBSが視聴率でも一人勝ちであれば説明がつきますが、実際にはそのような状況ではない(フジが1位、TBSは日テレ、テレ朝と2位争い。昨年と状況は余り変わらない)ので、この株価における一人勝ちはひとえに楽天によって演出されているものと言えるでしょう。

 つまり、楽天・TBS問題が再び動き出すときに、楽天を含めた誰かがTBSの株式を取得する動きに出ることを期待した買いが入った状態になっています。楽天がこのまま引き続きTBSの株式を保有していると、この状態もしばらくは続くものと思われます。

 TBSにしてみると、楽天との関係を今のあいまいなままにしておけば、株価一人勝ち状態を維持することができます。テレビ局間の視聴率競争は激しく、年度によって若干上下するものの、それほど大きく動くものではありません。0.5%も動けば大きく動いたことになる業界です。テレビ東京以外の4つの局の視聴率は大体拮抗しているので、視聴率で一人勝ちをして株価でも一人勝ちをするというのはなかなか難しいのです。しかし、楽天がTBSの株式を保有し続けてくれて、今のまま牛歩戦術的に業務提携委員会を形式的に続けていれば、心地よい株価一人勝ち状態をTBSは楽しむことが出来ます。

 一方の楽天の株価ですが、新興市場の下落とともに最近は芳しくありません。TBSの株価との比較においても、その明暗は明らかです。

TBSと楽天の株価パフォーマンス比較 TBSと楽天の株価パフォーマンス比較(昨年8月以降)出展:livedoorファイナンス

 また、現在のTBSの株価レベルであれば、楽天がTBSの取得のために費やした1000億円以上の投資が含み損を抱えている状態です。まさに踏んだりけったりの状態。1年経っても成果の見えない業務提携にこだわって、1000億円以上を塩漬けにし、相手企業の株高を演出する一方、自社の株価はいまいちという状態にいつまで楽天経営陣は耐えるのでしょうか。協議当事者である楽天にはキチンとした話し合い、進捗が見えているのかもしれませんが、外部から見ているとTBSの戦術は牛歩戦術にしか見えません。

 楽天の株主にとっては、楽天の株価が3年前のレベルにまで下がったことにより、過去3年以内に楽天株式を購入して現在も保有している人全員が含み損を抱えている状態になっています。米国ならどうなるでしょうか? 痺れを切らして経営陣に抜本的な解決を求めたりする局面も想像されます。果たして日本企業の楽天に対して、株主がなんらかのアクションを起こすことはあるのでしょうか……?

 牛歩戦術は政治の世界では効力を発揮しませんでしたが、日本の株式市場ではあっぱれなまでに効力を発揮するようです。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)。『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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