7月末から続けてきた連載は、20回目を数える今回で終了となる。
これまで、マイネットジャパンやルーク19、エニグモ、オウケイウェイヴ、アゲウンなど、独自の観点からWeb2.0的なビジネスに取り組んでいるベンチャー企業を数多く取り上げてきた。彼らの動向や、ネット業界全体のマクロな流れを俯瞰してみれば、そこにはひとつの大きな潮流があるように思われる。これは連載の前半でも書いたことだが、Web2.0は次のような進化のフェーズを重ねていくのではないかということだ。
すでに(1)のフェーズは完成した。検索エンジンマーケティングなどを活用したロングテールモデルは今やインターネットのインフラとしてWeb2.0の世界を支え、ネットビジネスを動かす内燃機関となっている。
これまでは企業が多額のコストをかけてテレビや新聞、雑誌の広告を出し、それを見た消費者が商品に惹かれて購入するというのが一般的な企業ー消費者マッチングのスタイルだったが、しかし今や検索エンジンやSNS、RSSリーダーなどネットのサービスを媒介にして、新たな出会いが生まれるようになってきているのだ。
そしてこの2006年から来年07年にかけて進みつつあるのが、(2)のソーシャル化のフェーズだ。ミクシィはソーシャルサービスの代表的な存在だが、しかしヤフーの井上雅博社長も本連載の中で指摘していたように、ミクシィの特徴である「交換日記」は決してソーシャルサービスの本質ではない。本質はマイミク(人間関係ダイアグラム)なのであって、この人間関係ダイアグラムをベースにすることによって、たとえば口コミ情報の信頼度を高めたり、オークションなどでの詐欺防止セーフティネットに活用することなどが可能になってくる。これまで――たとえばパソコン通信や「2ちゃんねる」などがあくまでもバーチャルの世界で完結したコミュニティーだったのに対し、ソーシャルサービスは、リアルとネットの間をつなぐ架け橋となっていくことが期待されている。そしてそうやってネットがリアルを浸食していく中で、ビジネスチャンスもさらに広がる可能性を持っている。
将来的な(3)のフェーズは、まだ見ぬ世界である。極大化されたデータベースが実現すれば、本来的な意味でのパーソナルマーケティングが可能になるだろうが、その一方で、その巨大なデータベースの海からデータを的確に拾い上げ、それらをマイニングして加工し、消費者(受け手)に有用な情報をもたらすためには、現在の検索エンジンやRSSフィード、ソーシャルブックマークなどよりもずっと高度なアーキテクチャーが必要になってくるように思われる。
Web2.0というのは――乱暴を承知でビジネス的にごく単純化してしまえば、極大化されたデータベースの海と、そこから的確に有用なデータを拾い上げるための「UFOキャッチャー」アーキテクチャーという、2つの層からなっているように思われる。データベースが巨大化していけば行くほど、そこから情報を収集・マイニングするためのUFOキャッチャーは高度化していき、高い能力を求められるようになる。今後、ネットのビジネスの世界はその方向にそって進化していくのではないかと思うのだ。
そうしたWeb2.0の世界においては、すべてはフラットになっていく。新聞記事も個人のブログのエントリーも同じ地平の中でとらえられ、あるいは大企業の製品も地方のささやかなお店の商品も同じように同一面で認識されるようになる。だがこのフラット化は、コンテンツそのものがフラットになるということではない。これまで新聞やテレビが持っていた「巨大なマス媒体」というコンテナー、あるいは大企業が持っていた「巨大な広告費を使ったテレビCMの投下」といったコンテナーがフラット化されていくということであって、物事すべてを<コンテンツ――コンテナー>モデルでとらえるとするのなら、フラットになるのはコンテナーであってコンテンツではない。
だから有用なコンテンツ、すぐれた製品、秀逸な記事など、単体としてのパワーは減じないし、フラットな世界だからこそその輝きは増していくように思われるのだ。
フラットな世界において、コンテンツの質はどのようにして担保されるのか。そしてそれら良質なコンテンツは、どのようにして収益に導かれるのか。これは実のところ、今の段階ではけっこう難しい難問だ。
連載の前回、バイラル・マーケティングにはリスペクトと可視化が必要だということを書いた。Web2.0のフラット世界では、うまくターゲッティングされた消費者層に情報を投げ込まれる。そして前回書いたように、マーケティングプロセスは可視化され、同時にそれらの情報を送り出すブログなどのメディアの自主性も担保されなければならない。
それはきわめてハードルの高い作業であり、非常に難しい舵取りが必要である。しかしだからこそ、この分野には巨大な金鉱も眠っている可能性がある。オーバーチュアのビル・グロスは、検索エンジンの検索キーワードに、消費行動の導線が眠っていることを発見し、検索連動型広告という巨大な市場を生み出した。この検索連動型広告モデルが秀逸だったのは、検索エンジンユーザーの主導権(どんなキーワードを使って検索をするのかという、主体的行為)を担保しながらも、その消費者の好みに応じて広告を提供するというモデルを提示できたことだった。
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