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ぎょぎょ、スキンタイト宇宙服開発中?!科学なニュースとニュースの科学

» 2007年08月03日 11時00分 公開
[堺三保,ITmedia]

 今年の7月にマサチューセッツ工科大学(MIT)のダバ・ニューマン教授が、今までにない画期的な宇宙服、バイオ・スーツ(BioSuit)を開発中であるという発表がおこなわれた。

 すでに国内のあちこちのサイトでも取り上げられて話題になってるけど、このスーツ、何がすごいって、船外作業可能なのに、どこからどう見ても、今までのごつい船外作業用スーツと大違いの、身体にフィットしたスマートなデザインで、どこからどう見てもアニメに出てくる宇宙服みたいなのだ。

BioSuit BioSuitを着てポーズを取るニューマン教授

 ちょうど『機動戦士ガンダム』に登場する「ノーマル・スーツ」と呼ばれる船外作業も可能な宇宙服に似ていると書いてあったサイトもあったけど、どうやら原理的に見ても一番近いのは、先頃アニメ化もされた野尻抱介さんのSF小説シリーズ《ロケットガール》に登場する「スキンタイト宇宙服」みたいだ。

 ところで、よくニュースなんかでも写ってるけど、宇宙空間に出るときに宇宙飛行士たちが着る船外作業用宇宙服は、なんであんなにごつくてぶかぶかしてるように見えるのか、知ってます?

 宇宙空間というのは、当然だけど空気が全然ない真空の世界だ。ってことは、これまた当然だけど、気圧もゼロってこと。そんなところに空気を入れて密閉した袋を置いたらどうなるか?

 気圧の低い方、つまり外側に向かって、風船みたいにパンパンにふくれあがっちゃうのである。そこで、船外作業用の宇宙服は、この内側からの圧力で、服がパンパンに膨らんだりしないため、さらには、酸素が漏れだしたりしないようにするため、あんなにごつくて不格好にできているのだ。

 よくよく見ると、腰や腕などの関節部や可動部は、動きが取れるように金属環で構成されているのが分かる。服と言うよりは、人の形をした容器みたいなものだと言ってもいいだろう。おかげで、これが実に重い。シャトルの船外作業服なんて100キロちょいもあるんだから。

 まあ、深海潜水用の潜水服にも似て無くもない。あっちは、周囲の高圧から、服の内部の低圧部分を守るためにあるのだから、目的は正反対だけど。

イラスト

 さらにいえば、宇宙服内は、通常の1気圧よりも気圧を低くしてある(気圧を下げると、肺から吸収される酸素の量が少なくなるため、気圧を減らしたぶんだけ酸素の量をふやしている。現在は、内部を4分の1気圧にするかわり、気体を全部酸素にしているらしい)のだが、それでも、服の内部はパンパンなのだ。

 じゃあ、なんでパンパンになっちゃうかというと、答は簡単、肌と服のあいだにどうしてもすきまがあるため、そこに空気の層ができちゃって、それでふくれてしまうという寸法。

 そこで、出てきた解決法が、野尻さんが《ロケットガール》内で唱え、今またダバ・ニューマン教授が提唱している方法、すなわち「肌に密着して、空気の層を作らない宇宙服」の開発である。

 教授によると、ポリウレタン繊維とナイロンを使用して体に密着する宇宙服を開発中とのこと。これなら、手足を動かすと同時に宇宙服も伸び縮みするため、今までのように服によって身体の動きを制限されたりしなくなるというのだ。

 もちろん、これは今までの船外作業用宇宙服と違って、むちゃくちゃ軽い。もし、このスーツの開発が成功すれば、宇宙空間での人間の活動は、ものすごく楽になるはずだ。

 ちなみに、この研究が一番《ロケットガール》っぽいのは、なんと開発者のニューマン教授が妙齢の美女で、しかも本人がモデルになって開発中のスーツ姿で写真を撮ってたりするところ。

 もしかしたら、我々はまさにSFが現実化するところを目撃しようとしているのかも?(って、大げさすぎるかな)

堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。最近の仕事では、『ダイ・ハード4.0』(翻訳:扶桑社)がある。仕事一覧はURLを参照されたし。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。

ウェブサイトはhttp://www.kt.rim.or.jp/~m_sakai/、ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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