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» 2007年07月20日 11時00分 UPDATE

科学なニュースとニュースの科学:科学と宗教は折り合えないのか? 〜創造説博物館が設立?!

ケンタッキー州に、進化論を真っ向から否定し、この世界は神による天地創造によって生まれたとの主張に基づく、「創造説博物館」がオープンしました。

[堺三保,ITmedia]

 5月末、米国ケンタッキー州ピータースバーグに「天地創造博物館(Creation Museum)」がオープンした。ここはその名の通り、キリスト教の旧約聖書に書かれているように、神が世界を生み出したとし、進化論は誤りであるという創造説を広めるための展示施設である。

 大金を投じて作られた施設内には、精巧なアニマトロニクスで動く恐竜たちの模型が、人間の模型と肩を並べるように展示されているという。聖書によれば、すべての生き物は神が6日間のうちに作り出したのだから、大昔は人間と恐竜が同時代に生きていたはずであり、その姿を展示することで、人々に進化論の誤りを訴えるのだというのである。さらに言えば、聖書内の記述(例えば、アダムとイブのエデン追放とか、ノアの箱船とか)は一言一句科学的に証明可能な事実であるということも訴えているのだそうな。

 しかも、この恐竜、やたらとよくできているそうで、それもそのはず、この展示をてがけたパトリック・マーシュ氏は、ユニバーサル・スタジオのキング・コングやジョーズなどの目玉展示を担当したこともあるベテラン展示デザイナーなんだとか。すでに引退していたのに、この博物館の話を聞いてボランティアを申し出たとか。

イラスト

 ちなみに、実はこの手の博物館は、小規模なものならすでに米国のあちこちにあって、今回創設されたものは、それらの中でも最大規模かつ本格的なものなんで話題になっているらしい。

 この件を報じたABCテレビのニュースサイトによれば、この博物館の資金源である団体「アンサーズ・イン・ジェネシス(AiG)」のケン・ハム会長は、こんなことを言っている。「進化論的な世界観に従うなら、どうやってモラルを保っていられるんだ? 進化論者にモラルがないとは言ってない。進化論者にはモラルを持つ理由がないと言ってるんだ」

 非キリスト教圏で生まれ育ち、現在は無神論者である筆者のような人間にとっては、噴飯ものの主張である。というか、進化論否定するくらいなら、いっそ地動説否定するところまで戻ってしまえ>キリスト教右派。

 とはいえ、この手のいわゆる宗教右派を批判するために、宗教すべてを否定してしまうのは、それはそれでどうだろう?

 先日、日本語版が出版されたリチャード・ドーキンスの『神は妄想である』は、「神などいない」ことを徹底的に論じた本だ。ここでドーキンスは、いかにも彼らしい鋭い舌鋒で神の不在を説いていて、日頃、過激な宗教右派の言動に眉をひそめている筆者のような人間にとっては、痛快この上ない本である。

 ではあるのだが、信仰というのは読んで字のごとく、最終的には「信じるか否か」という、非論理的な態度を基盤としている。だから、ドーキンスの論法は無神論者と信者との対立を深め、宗教右派な連中が狙っている「科学対宗教」の二分法を煽ることになってしまわないかと、読後、すごく気になってしまったのだった。

 要は、科学と宗教を分離しておくことがもっとも大事なことだと思うし、そのためには、キリスト教にしてもイスラム教にしても、過激派に対して宗派内でなんとかしてくれないと、外からの批判じゃどうにもならないような気もする。まあ、現状、天地創造博物館にそんなに大勢の観光客が詰めかけているということはなさそうだけど、米国が地滑り的にこれ以上変な方向に行ったりしないことを切に願いたい。

 なんせ、Newsweek誌の調査によると、ウソかマコトか、アメリカ人の48%は進化論を否定しているというのだから、お先真っ暗な感じである。『宇宙の戦士』『夏への扉』で知られるSF作家のロバート・A・ハインラインが書いた初期の短篇に、「もしこのまま続けば」(『動乱2100』に収録)という作品がある。宗教国家になってしまった近未来のアメリカを描いたディストピアものなのだが、そこで描かれていたような暗澹たる未来像が、妙にリアルに感じられる日が、21世紀になって本当にやって来ようとは。

 ハインラインが今も生きてたら、何て言っただろうか、考えさせられる今日この頃である。

堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。仕事一覧はURLを参照されたし。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。

ウェブサイトはhttp://www.kt.rim.or.jp/~m_sakai/、ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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