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インターネットは「統治」できるか?

» 2007年11月28日 09時56分 公開
[Larry Seltzer,eWEEK]
eWEEK

 たいていの人は、インターネットを監督する機関のようなものがあると思っているだろう。ルールを施行し、新しい標準を設ける機関が。もちろん、そんなものはない。

 そう思われている理由の1つは、テレビや映画でテクノロジーが誤解を招くような描かれ方をしているからだ。わたしが特に覚えているのは、人気ドラマ「Law&Order」のあるエピソードで、ニューヨーク市警のコンピュータ技術者が電子メール送信者を特定する「tracert」プログラムを走らせて、住所を突き止めた場面だ。すごい技だ。

 実際の科学捜査は費用も時間もかかる。それに、そうした技術が使える人間は、数百万件の攻撃に対して1人の割合だ。言い換えれば、主導権を持っているのは犯罪者の側で、彼らが方針を決めているということだ。聡明でリソースのある人たちは自衛できるが、だからといって、それがインターネットの自然の状態であるという事実は変わらない。むしろその事実を強調している。

 時折インターネット犯罪者が捕まることもあるし、最近は幾つか有名な例もあった。スウェーデンの「ハックオブザイヤー」の犯人は、劇的な家宅捜索を受けて逮捕された。セキュリティコンサルタントのダン・エガースタッド容疑者は、大使館などの電子メールをぼう受し、政府の機密メールアカウントを大量に乗っ取った。

 少し前には大規模ボットネット運営者が、25万台のPCでボットネットを構築し、PayPalのアカウントなどの個人情報を盗んだことに関するさまざまな詐欺容疑を認めた記事にあるとおり、「米国ではこの種の刑事訴追はこれが初めて」で、それこそが事実を物語っている。こうしたやからは、たとえ攻撃が阻止されても、たいていは逃げおおせてしまう。

 最近ブラジルで開かれたInternet Governance Forum(IGF)には、そうした状況を大きく変えるという印象はなかった。その理由の1つが、国連主催のフォーラムだからだ。米国がインターネットに対して何らかの権限を持つことを嫌う人が多いことは知っている。もっとも、米政府が持つ権限の範囲はたいてい誇張されているのだが。「偉大なるチューリングの亡霊」というわけだ。国連だったらインターネットをめちゃくちゃにしてしまうだろう。国連が米国に取って代わるくらいなら、インターネットをジョージ・ブッシュの手に委ねる方がいい。

 もちろん、IGFの実際の目標は限られており、メーリングリストやRSAなどでしょっちゅう開かれている標準化団体の会合と大差ない。例えばガディ・エブロン氏のIGFの報告を見ると、中国の人々は自国のネットワークから発信された悪質な攻撃が急増していることを懸念しているようだ。一体誰がそんなことを考えただろうか? 権限ある人たちは、ネットワークは信頼してもらえなければダメになるということを分かってくれるだろうと皆は期待するだろう。だから、中国に望みはあるかもしれないが、わたしならその可能性に賭けたりはしない。

 インターネットガバナンスの真実は、IGFでビント・サーフ氏が言ったように、インターネットはほとんど私的な存在に所有されているというものだ。ルールはオーナーとユーザーの合意による。サーフ氏は、複数の利害関係者を考慮に入れたガバナンスモデルを主張した。それは同氏が会長に就いていたときにICANNが取ったアプローチだが、どんなによく言っても停滞している。利害関係者と有力者を多く巻き込めば、進展は妨げられるものだ。

 インターネットの真の権限は、最も広いコンセンサスからのみ生まれ、完全に商業的なものであることが多い。統括するのは標準化団体、大企業、影響力を持つ個人などだ。ネット上でビデオを作ったのは学術団体でも標準化団体でもない。自らの利益のために自らの標準を推進する民間企業が作ったのだ。その結果はおおむね肯定的なものだった。たくさんの選択肢があり、堅実に進歩している。VoIPもだいたいはそうだ。

 それに、セキュリティはどうなのか? 変化が必要だという幅広いコンセンサスがあっても、誰もルールを決めない。電子メールを見てみるといい。根本的に崩壊していることはほとんどの人が認めている。これがもっと良くなるとしたら、何年もかかるだろうし、どう変わるのかもまったく分からない。電子メールの問題は、「インターネットガバナンス」と向き合うべき最も重要な問題だが、政府はこれまで解決できなかった。

 ある日誰かが、インターネットの壊れた部分を直せるくらいの影響力を持つかもしれない。だが、それはやる価値があることなのだろうか。

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