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レコメンデーションの虚実(13)〜ソーシャルレコメンドは友人関係を壊しかねないソーシャルメディア セカンドステージ(1/2 ページ)

» 2007年12月10日 12時30分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]

最大公約数的マスメディアよりも信頼できる友人・知人情報

 前回(Facebookの灯台はすべてを明るく照らし出す)も書いたようにFacebook Adsは、友人のすべての行動を覆い尽くして、それらの行動をすべて“わたし”に投げ込んできてくれる。「あなたの友人のAさんは、Amazonで○○という本を買いました」「あなたの友人のBさんは、チケットぴあで△△という演劇のチケットを買いました」

 これがかなり強力なレコメンデーションになることは間違いない。かつてのマスメディア全盛時代とは異なり、いまや人々は自分の知人や信頼する人からの情報しか信じなくなってきている。いくらテレビや雑誌で「この店は美味しいですよ」と紹介されていても、たいていの人は「本当に美味しいのかな?」「テレビの取材が来たときだけ美味しい料理を出してるんじゃないの」「雑誌のレストラン紹介なんて広告でしょう? 信用できないよ」と思っていたりする。

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 しかし友人や知人からもたらされた情報となると、話は別だ。「ねえ知ってる? あそこのお店美味しいんだって」「誰から聞いたの?」「ほら、私の会社の同僚のA子ちゃんっているじゃない。彼女から」「A子さんって美味しい店いっぱい知ってる人だよね。そりゃ信用できるかもね」

 背景には、マスメディアに対する信頼感が揺らいでいるという問題もあるが、それとともに見過ごせないのは、マスメディアの情報はどうしても最大公約数的になってしまうという問題だ。テレビは日本人全体へのリーチ率が100%近くもあり、首都圏のキー局であれば1億2000万人を対象にした番組づくりを行っている。そうなるとテレビでレコメンドされる商品というのは、1億2000万人の日本人全員が、そこそこ満足できる程度のものになってしまう。

 例えば書籍なら紹介されるのは無難なベストセラーかタレント本ばかりで、間違ってもカルト作家の古い小説なんかが取り上げられることはない。レストランでも同様だ。「こんなに豪華でわずか700円のランチ」や「3000円で食べられるフレンチのフルコース」はテレビのお気に入りのメニューだが、しかし真面目にグランメゾン(高級フレンチレストラン)の3万円のコースがお勧めされることはない。そういうメニューは、「セレブの世界をかいま見る」というまた別の文脈で取り上げられる内容であって、消費者にお勧めする内容とは峻別されているのだ。

 つまり書籍にしろレストランにしろ、特定の層の人たちにしか受け入れられないようなマニアックな商品は、テレビではレコメンドされないのである。しかし友人や知人のクチコミは、そうではない。お互いにどういう好みかが分かっていれば、「Bさんは確かマニアックな倒錯ミステリが好きだから、この本を気に入るんじゃないかな」「この山羊のチーズは凄い濃くて普通の人にはお勧めできないな……でもチーズ通のC子さんだったら好きになるかも」といったレコメンドが可能になる。レコメンドの個別最適化が行われているのだ。これはソーシャルレコメンデーションの最大の強みである。

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