ここ米カリフォルニア州サンディエゴにはApple Storeが2つあるが、どちらのApple Storeにも行列はできていない。たとえ並びたい人がいたとしても、恐らくショッピングモールは行列を認めないだろう。だがニューヨークの状況は異なる。立方体をしたニューヨークのApple Storeの外には既に行列ができている。行列は7月11日に予定されているiPhone 3G発売の約1週間前にでき始めたという。
7日間といえば、168時間であり、1万80分であり、60万4800秒だ。それだけの時間があれば、ほかにもできることはいろいろある。
iPhone 3Gの発売を待って早くから行列をなすとは面白い。たかが携帯電話なのに! みんな、もっと人生を楽しまなくては! でもここで重要なのはライフスタイルなのだろう。この行列について何かブログに書くのであれば、わたしはその観点で語りたい。人間とは本来、群れを成し、何かに所属したいと思う生き物だ。こうして行列を作っている人たちは7月11日の午前8時が近付くにつれ、徐々に連帯感や仲間意識を感じるようになるだろう。
また行列に並ぶということは何かに乗じて自らに注目を集めるチャンスでもある。iPhone 3Gの行列の先頭グループに並んでいる人たちは今週、リポーターやブロガーたちから幾度となくインタビューを受けることになるだろう。今週発売の注目の新製品を買うために行列するというだけで、とにかく数日間は特別な存在になれるのだ。
著名ブロガーのロバート・スコーブル氏は7月4日、初代iPhoneの発売時に行列した体験について次のように書いている。
「わたしはApple製品を買うためによく行列している。昨年は初代iPhoneを買うために息子と一緒に30時間以上、行列に並んだ。並んだのはスティーブ・ジョブズ氏の自宅に一番近いカリフォルニア州パロアルトのApple Storeだったが、わたしたちは行列の先頭グループに入っていた。わたしとしては、iPhoneを使うより行列に並んだことの方が面白かった。あの体験はわたしの今後の人生において、いつまでも記憶に残る出来事の1つになるだろう。行列には、Appleの有名なソフトウェア開発者や企業の有名CEO、評判のベンチャーキャピタリストなども並んでいて、ほかにもたくさん面白い人たちがいた。Apple製品を買うために並んで待つというのはすごく楽しい体験だから、バカバカしくてもかまわない。ブログを書かなくてもTechmemeで取り上げてもらえる確実な方法でもある。さあ、Appleファン待望の楽しい1週間の始まりだ」
ロバートのコメントはAppleコミュニティーの連帯感や「自分が特別な存在である」という意識を見事に言い得ている。しかもこれが、Microsoftが輩出した最も有名なブロガーによる発言だとは……(現在同氏はMicrosoftから動画ブログのFast Companyに移籍している)。ロバートがMacに移行したということは、iPhone 2GであれiPhone 3Gであれとにかく列に並んで購入するというデジタルライフスタイルを選択したということなのだろう。
発売の何日も前から行列を作らせて注目や期待を集めるというAppleのマーケティング手法はうまく機能しているようだ。なぜなら同社が販売しているのはライフスタイルとそれに付随する連帯感だからだ。製品あるいはブランドの成功にとってライフスタイルは欠かせない要素だ。
わたしは1980年代に何度かマンハッタンで夏を過ごした。ある8月の夜、わたしは8番街の33丁目や34丁目あたりで何百人もの人たちが野宿しているのを目撃した。それは、数日後にマディソンスクエアガーデンで開催されるグレートフルデッドのコンサートを待つ熱狂的なファンたちだった。グレートフルデッドとそのファンにとって、音楽、ドラッグ、そして絞り染めのシャツはすべてライフスタイルだったのだ。
デッドヘッズと呼ばれるグレートフルデッドの熱狂的信者らがニューヨークの街中で野宿してから数十年、今マンハッタンに列を成しているのはiPhoneの発売を待つMac信者(マックヘッズ)たちだ。もっとも、iPhoneユーザーがすべてMacユーザーというわけではない。それならば、もっとぴったりの呼び名が必要だろう。例えば、「phoney」とか「iphoney」とか? あまりいい名前が浮かばない。何かアイデアがあれば、ぜひお知らせいただきたい。
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