オンラインゲーム大会が「ギャンブル」で摘発される可能性ビジネスシーンで気になる法律問題(2/2 ページ)

» 2007年03月16日 11時30分 公開
[情報ネットワーク法学会, 中崎尚,ITmedia]
前のページへ 1|2       

自国外のオンラインギャンブル、米国は取り締まり、英国は枠組み作り提唱

1分で分かるキーポイント

  • オンラインギャンブルは物理的な距離の問題を解消した。プレイヤーの敷居を下げたといえる
  • 米国など、自国外でオンラインギャンブルを提供する事業者を取り締まり対象にする国も現れ始めた
  • 一方、英国は、一定の規制の下でオンラインギャンブル事業を国際的に公認する枠組み作りを提唱
  • オンラインギャンブル自体の摘発事例は日本国内にもある

 各国の扱いを概観してみよう。オンラインギャンブルの最大の特徴はWebサイト上に賭場が存在する点だが、基本的には旧来のギャンブルと同様と考えていい。むしろ、通常のギャンブルと異なってサービスが国境を容易に越えて利用可能という点が重要かもしれない。プレイヤーは、ラスベガスまで行かずとも簡単に参加できるため、「ギャンブルのオンライン化」はプレイヤー側の敷居を著しく下げたといえる。

 反面、取り締まる側からすれば、国内の事業者によって提供されるギャンブルをいくらコントロールすることに成功したとしても、国外の事業者が展開するギャンブルに参加する人数が多くなったのでは、取り締まりがうまくいっているとはいい難い。

 いくつかの国では、国外のオンラインギャンブルを取り締まり対象とすることに本腰を入れつつある。米国では2000年に国外でオンラインのスポーツ賭博事業を運営している米国在住者に対して有罪の評決が下されるなど、元来、国外のオンラインギャンブル取り締まりに熱心だ。だが、競馬に関して州をまたぐオンライン賭博が認められていることもあり、国外のオンラインギャンブルを禁止する姿勢は不一致だとする指摘もある。

 2006年に成立した「Unlawful Internet Gambling Enforcement Act of 2006(非合法インターネット賭博禁止法)」では、国外に拠点を置くオンラインギャンブルに関して、米国の銀行や金融機関、そのほかの決済機関による決済を禁じることで、各州政府が認可したオンラインの競馬と宝くじを除いたオンラインギャンブルを根絶しようとしている。

 他方、逆の方向で動く国家当局もある。米国の同法に対抗して、英国政府は一定の規制の下でオンラインギャンブル事業を国際的に公認する枠組み作りを提唱している。その主張は、オンラインギャンブルは世界的に需要が大きく、利用者保護の国際ルールを作ろうとするものだが、先行きは不透明である。

 日本国内でも動きがある。2007年1月に、フィリピンにサーバを置く第三者のオンラインカジノに店側が登録したアカウントを使用させる手法で、客にバカラ賭博を提供していたネットカフェの経営者に有罪判決が下ったとの報道があった。同事件の京都府警による摘発は2006年2月に行われたものである。この事件は海外のカジノサイトを利用した賭博の初の摘発事例と言われるが、有罪判決に至るまでに時間を要したのは、金銭の流れやシステムの立証が困難だったためだといわれる。

国内摘発事例の概要

 事件の特徴は、金銭をやり取りしていたのは、カジノサイト上ではなくネットカフェの経営者と参加者だけで、ネットカフェが換金機能を果たしていた点である。なお、ネットカフェの経営者の罪名が、カジノなどの賭場を開いた罪に当たる「賭博場開張等図利罪」ではなく、ギャンブル常習者の罪である「常習賭博罪」であることに、違和感を覚える向きもあるかもしれない。実は、多数の遊技機を設置した遊技場経営者に常習賭博罪が成立すること自体は、1979(昭和54)年の最高裁判決により実務的にはほぼ定着しているのだ。

 あえて法定刑の上限が低い常習賭博罪の方を適用しようとする理由としては、客が消費する金銭のうち、賭博の賭金の部分と賭場の収入となるテラ銭の部分の区別が付けにくく、賭場を開いたことの立証が難しいことを考慮したとの指摘もある。

常習賭博罪と賭博場開張等図利罪

 常習賭博罪は刑法186条1項、賭博場開張等図利罪は186条2項に規定される。法定刑は、常習賭博罪が「3年以下の懲役」であるのに対し、賭博場開張等図利罪は「3カ月以上5年以下の懲役」と重い。刑法186条1項だけ見ると、常習賭博罪の懲役刑の下限がないように見えるかもしれないが、特に定めがない場合は「1カ月以上」(刑法12条1項)になるのだ。


情報ネットワーク法学会とは

情報ネットワーク法学会では、情報ネットワークをめぐる法的問題の調査・研究を通じ、情報ネットワークの法的な問題に関する提言や研究者の育成・支援などを行っている。

筆者プロフィール 中崎尚(なかざき・たかし アンダーソン・毛利・友常法律事務所所属)

サイバー・ロー、知的財産法や不動産や証券などのアセット・ファイナンスなどを担当する。なかでもコンピュータ・通信を中心に技術分野の事件やインターネット特有の問題に注力している。


編集部からのお知らせ

 連載「ビジネスシーンで気になる法律問題」では、読者の皆様からの投稿を受け付けております。ビジネスに関連する法律問題について、相談や質問などのご意見を以下のフォームから投稿してください。なお、受け付けましたご意見に関しては、記事中でご紹介させていただくことがございますので、ご了承ください。


投稿フォーム

氏名(ハンドルネーム可):



内容:



前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ