「総務の森」とカウネットを結びつけた「サイトストック」

「Webサイトを作ったって儲からない」――そんな声を耳にする。営業力が足りなかった新興企業と、新しいサービスを求めていたレガシー企業を結びつけたのはサイト売買サービスの「サイトストック」だった。

» 2007年06月05日 21時37分 公開
[鷹木創,ITmedia]

 「Webサイトを作ったって儲からない」――そんな声を耳にする。プログラマーやデザイナーが面白いサイトや役に立つサイトを作っても、アクセスが少なく収益が上げられず、継続的に運営できなかったりすれば、ビジネスとして成立させるのは難しい。

「総務の森」のビジネス化に必要な能力とは

 カヤックが運営していた総務情報サイト「総務の森」もビジネス化に苦しんでいたサイトの1つだ。総務の森はもともと、2000年3月に1人の社会保険労務士が立ち上げた個人サイトだった。その社労士がカヤックに入社し、運営母体もカヤックに移った。2007年5月のページビューは月間150万。社労士のほか、税理士や行政書士などの有資格者700人が相談を受け付ける「国内でも有数の総務情報サイトに成長した」(カヤック柳澤大輔代表取締役)という。

「国内でも有数の総務情報サイト」だという「総務の森」

 月間100万を超えるPVを集めるとはいえ、ビジネスとしてはリスティングやバナーなどの広告によるほそぼそとした収益しかなかった。

 それにカヤックは情報を発信するメディアが本業の会社ではない。社員は20数名で、そのうち多くがプログラマーやデザイナーという、いわゆるIT系企業。創立9年目と若い会社でもある。もちろん、「総務」という業務にもそれほど近しいというわけではない。入社した社員の個人サイトを会社で運営することになったものの、「サイトに集めたユニークユーザーをサイト内で回遊させる技術力はあるが、リアルな物販や営業を通じた集客能力に欠けていた」(カヤックの柳澤氏)のだ。

 そこでカヤックでは総務の森の事業を譲渡することにした。相手はコクヨグループのカウネットである(6月4日の記事参照)。これまでカウネットが主に手がけてきたのは法人向けのオフィス文具通販事業。総務の森は、オフィス文具の調達責任者である総務担当者が多く閲覧しており、カウネットの通販事業と親和性も高い。加えて、カウネットでは個人向け通販事業「メールギフト365」を開始するなど、法人向け通販以外のビジネス展開もにらんでいた。情報発信やコミュニティを運営する事業も「視野に入れていた」(カウネット有賀公夫常務)という。

 オンライン通販を手がけるカウネットは、コクヨグループの中では“異端児”ともいえる存在だが、IT企業からすればカウネットだってコクヨグループというレガシー企業。だが、このレガシー企業には物販や流通に実績もあり、動員できる営業力もカヤックとは比べ物にならない。そもそも、カウネットが運営するオンライン通販サイトの集客力は、「総務の森と桁違い」(カウネットの有賀氏)なのである。

カウネット
カヤックの柳澤氏
カウネットの有賀氏

Webサイトやシステムの“出会い系”サービス

 「総務の森という専門情報サイトに、カウネットの物販や流通などリアルな営業力が加われば、より強いシナジーを得られるはず」と語るのはデジパの桐谷晃司社長。どちらかというとレガシー企業に属するカウネットと、技術者集団のIT企業であるカヤックの間を取り持ったのが、デジパが運営する仲介サービス「サイトストック」だった。

デジパが運営する仲介サービス「サイトストック」。あの「comatta.jp」も仲介した

 サイトストックでは、ユーザーから申し込みを受けたサイトやサービス、システムなどを買い付ける企業を探す。いわば、Webサイトやシステムの“出会い系”サービスだ。2007年3月の開始以降、すでに11件が成約。この11件目がカウネットとカヤックだったわけだ。「サイトやサービスを作る能力と、作ったものを売る能力は異なる。これまでプログラマーやデザイナーが面白いサイトや役に立つシステムを作っても、開発したものをお金に換える部分の障壁が高かった」(デジパの桐谷氏)

デジパの桐谷氏

 これまでもサイトストックのような仲介サービスがなかったわけではない。ユーザー自身が開発したものを登録し、買主が現れるのを待つだけのサービスもある。場合によっては、買主、売主ともにお互いを全く知らず、オンライン上の手続きだけで終わってしまう。往々にして、対象となるWebサイトを売上やページビュー(PV)など数値的な部分や経済的な側面だけを見積もるケースも多いという。

 デジパはもともとSEOのコンサルティングなどを請け負う事業も行っていたため、ある種、Webサイトなどオンラインビジネスの“目利き”でもあるという。サイトストックでは、必ず売主に連絡を取り、売上やPVだけでない独自の指標で調査する。その結果、たとえ売上やページビューがゼロでも、サイトの仕組みやシステムのアルゴリズムに先見性がある場合、高い評価につながることもあるのだ。

 さらに、単に仲介の場を設けるだけではなく、売主と買主の橋渡し役も引き受ける。カウネットとカヤックの例でいえば、総務の森の売り出しが決まってから、20数社をピックアップ。デジパではそのうち12社に売り込みをかけ、最終的にカウネットに決まった。実は、今回の事業譲渡後、運営はカヤックがそのまま業務委託を受ける。

 「Webサイトを作った人の気持ちは作った人しか分からない」(デジパの桐谷氏)。譲渡するとしても何らかの形で運営に携わりたいカヤックと、サイト運営のノウハウを得たいカウネットの思惑が合致した格好だが、こうした条件をマッチングさせるのがデジパの役割だという。

サイト売買は“若者支援”

 これまでプログラマーやデザイナーは、自分で作成したWebサイトやシステムをビジネス化したい場合、コツコツとPVを稼ぎ、ほそぼそとした広告で売上を積み上げて、地道に認めてもらうほかなかった。デジパの桐谷氏は「サイトの売買市場はまだまだ小さいがビジネス化の1つの方法。いわば“若者支援”だ。若いプログラマーやデザイナーが成功するためのきっかけになるのではないか」という。

 調査の実施などコンサルタント費用も含んだ手数料は、譲渡費用の10〜30%。サイトストックのサイトでは現在も40〜50件のサイトやシステムが“出会い”を求めて売り出されている。

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