自分の時間もブロック──コンタックのブランド作りに挑戦するウォンさんの仕事術達人の仕事術

「コンタック」といえば風邪薬。この有名な薬のマーケティングを手がけているのは、中国・上海で生まれ育ったジョイ・ウォンさん。2006年に来日し、国内販売のブランドマネージャーも務めている。そんな彼女の“多国籍な仕事術”を追う。

» 2007年10月10日 12時00分 公開
[北本祐子,ITmedia]

 「コンタック」といえば風邪薬。この有名な薬を販売するグラクソ・スミスクライン(以下GSK)で新製品のマーケティングを手がけているのは、中国・上海で生まれ育ったジョイ・ウォンさん。以前は米国GSKのグローバル事業開発部に所属し、中国の商業分析マネージャーを務めた。その後、禁煙薬の発売に携わりながら米国国内で転任。2006年からは日本に異動し、コンシューマーヘルスケア事業本部でコンタックのブランドマネージャーを務めている。

 日本でも有名なコンタックブランド。ウォンさんは「日本で新製品の発売に携わるのは新たなチャレンジ。面白いはず」と語る――。

会議に招集する人数は可能な限りミニマムに

ジョイ・ウォンさん。中国の商業分析マネージャーを務めた後、禁煙薬の発売に携わりながらアトランタ、フィラデルフィア、ピッツバーグと米GSK社内を転任。2006年に来日し、コンシューマーヘルスケア事業本部でコンタックのブランドマネージャーを務めている

 ブランドマネージャーは、担当する商品の宣伝戦略だけでなく、売上実績や生産数など、幅広い責任を負う。だが、宣伝業務以外の業務は各部門の協力を仰がないと動かせない。営業マンとの打ち合わせや生産ラインとの調整、財務部との交渉――。日々打ち合わせが多くなってくる。しかし「会議したい」と思っても、自分の上司や他部門の重要な人を集めるのはなかなか難しい。事前に時間を押さえても、上手くいかないこともある。

 ポイントは必要のない人を会議に招集しないこと。会議というと「念のため」と思い、できるだけ多くの参加を呼びかける人もいるが、ウォンさんはたとえ自分の上司であっても、議題に関係なければ出席する必要はないと言い切る。価値がない会議に出ることは時間の無駄遣いで、他のもっと重要な仕事をするべきだと考えているのだ。

 逆に、招集できなかった人への対処法はどうするのだろうか。

 「どうしても出席できない人には、あらかじめ個別に時間をとってもらいます。担当の人が出席できないから(その部門の)情報が得られないのは損失です。事前に時間が取れない場合は、後日でもいいからその部門の情報を得て、別途会議を開くなどして情報を共有するようにします」

 これは米国で学んだ「Simplicity」「Less is more」という考え方に基づいている。できるだけシンプルに、少なければ少ない方がいい――。網羅的に関わるのではなく、あくまで絞り込み厳選して臨むのである。売り出し中の朝と夜の2回だけ飲む「新コンタックかぜ総合」にも通じる──というわけだ。

米国の常識、日本の不思議

 メンバーを厳選するから、会議も密度の濃いものにしたい。そんなウォンさんが不思議に思うのは、事前に予定された会議にも関わらず、何の用意もして来ない人。日本ではそういう場面にしばしば遭遇したという。

 会議に出席するならば、共有した情報を自分の頭で考えてから出席してほしい。出るからには、新しい提案や実現した結果を持ってきてほしい。「日本での最大のチャレンジは、効率よく仕事すること」と語るウォンさんは、「出席して、思いつきだけを発言する場ではない」と思っている。事前に共有した情報を元に、しっかり考えて出席してほしいのだ。

 会議のスタートラインは、単に出席するだけのときではなく、全員が意見を持って出席するとき。会議のテーマは事前に伝えているわけだから、準備をして臨まないと1時間の会議時間も効率良く使えない。レベルの高い議論にならずに終わってしまう。 そのため、事前に会議の招集メールでその人に対して期待することや会議の目的を知らせて、準備して臨むよう喚起している。

日本的なコミュニケーション、身に付けたのは米国

 ウォンさんがビジネスの基本を身に付けた米国では、GSKのオフィスが全土に広がっていた。勤務地の違いに加え、自宅勤務の人も多いため、直接会って話をすることは難しかったのだ。それに比べて日本では、1つのビルにオフィスがまとまっている。別のフロアにも積極的に行って、情報を収集したり、会議に参加する人とのコミュニケーションもたやすいのである。

 コミュニケーションしやすいといっても、メールの返事をすぐに返す人もいれば、なかなか返さない人もいる。そのため、相手に応じて電話でフォローアップしたり、営業のフロアで直接顔を合わせることもある。「電話をかけることは全然苦にならないです。今どうなっているかと進行状況を聞いたり、締め切り前に様子をチェックするなどまめに連絡をするようにしています」。きめ細かいチェックはむしろ日本的ですらある。

 社内ネットワークで利用する独自開発のチャットシステム「Sametime」も活用。返事をしないとPCの画面右下でオレンジ色に点滅し続ける。目立つ色だからか、レスポンスもいいという。

 「世界全社共通であるので、簡単な会話程度であればSametimeを使っています。特に海外の人をつかまえるのはいいですね。忙しくて対応できないときには私も『TTYL』(Talk to you later)と入れています」

効率化に目覚めさせた「7つの習慣」

 ウォンさんが効率化に目覚めたのは、米国で受けた社内研修のトレーニングからだ。GSKでは世界的にある書籍に基づいた研修を採用している。それはフランクリン・コヴィーの「The 7 Habits of Highly Effective People」 (邦題:7つの習慣)である。ウォンさんも、7つの習慣から「仕事をする上での優先事項を決める習慣を学んだ」という。

 「どうしても手をつけやすい仕事からやりがちですが、本来は重要な業務ほど多くの時間を費やすべきです」。仕事の時間は必要なときは、スケジュールをブロックに区切って、他の人が会議や打ち合わせを入れられないように自分のスケジュールを押さえるようにしている。

 そんなウォンさんも、日本に来たばかりの時は重要なことを後回しにしてしまい、そのために残業をしていたようだ。日本のスタイルに合わせようとするあまり、米国で培った自分のワークスタイルを実現できないことでストレスがたまり、ベストの状態を保てなくなってしまった。

 しかし、最近では仕事が多い日はできるだけ早く出社して、優先事項を決めるように変えた。会社としても残業をしないよう推奨していることもあり、ほかの人との調整が必要な打ち合わせは日中に設定し、終業後の自分の時間を楽しむよう早く帰るようにしているという。プライベートな約束がある部分の日程も「Lotus Notes」のスケジューラーでブロック分けして、打ち合わせが入れられないようにして時間をキープする。どうしても仕事が終わらない場合だけ、自宅にPCを持ち帰っている。ウォンさんから見ると、日本人のスタッフは「物理的に会社に残りがち」だと感じている。

米国の“友達”BlackBerryが恋しい

 ビジネスのスケジュールに関しては、会社のPCでLotus Notesに入力して管理。朝出社すると、まずNotesのカレンダーを立ち上げて、その日が締め切りの仕事をチェックする。会議や仕事の締め切りにはそれぞれリマインダーを設定して管理している。どうしても予定通り終わらなかった業務は、締め切りを翌日に再設定する。

 仕事のスケジュールは月間スケジュールのプリントアウトをノートに入れて持ち歩く。優先順位を決めたり、今日しなくてはならないことを整理するためにポスト・イットも忘れない。「誰に電話しなきゃいけないとか、今日やらなきゃいけないことを書いています。結構原始的な感じです」と笑う。個人のスケジュールはYahoo!カレンダーを使用しているが、それは友人の誕生日などを入れている程度で、手帳も持っていない。手帳や紙はなくすと終りだが、オンライン上にデータがある方が復旧できるので十分だと思っている。

 「米国にいたときにはBlackBerryを使っていたので、ビジネスのスケジュールもPCと同期させて、すべて携帯できていました。PCとの同期も簡単だったし、仕事のメールを外出先からでも手軽に読めるので便利だったんですよ」。今ではBlackBerryがない生活にも慣れたが、やはりまだ恋しい。

Notesをプリントアウトしたスケジュール

 日本ではBlackBerryの代わりに携帯はauの「W42H」を使っている。ブランドマネジャーとしてコンタックのプレゼントキャンペーンにも携わっているため、マーケティングツールとしても携帯に注目しているという。

 「風邪薬を使う人たちの情報へのアクセスポイントについて考えました。PCなのか、それともテレビなのか……そう考えたときに、1日24時間最も身近にあるツールは携帯でした」

 「まるで魔法のコードのような」(ウォンさん)QRコードで応募サイトにアクセス。当選すると1000円分の音楽がダウンロードできるようになるのだが、応募からプレゼントの発送まで携帯のみで完結してしまうのがすごいと感心する。おサイフケータイをはじめ、通話やメール以外の用途が日本では多いことも新鮮だった。

 日常的に使っている携帯向けサービスは、乗り換え案内のほか、R25の「朝イチメール」。これからが“風邪シーズン”とあって毎日の天気は特に見逃せないのだ。

7つ道具。SIIの電子辞書、W42H、ThinkPadなど。お財布(左下)や名刺入れ(中央)などの小物には、女性ならではのセンスも光る

活力は週末に

 気分転換のために、週末はほとんど東京を出て大自然に触れるようにしている。それは米国にいたころからの習慣だ。PCの壁紙には大島の写真――。楽しい週末を目指して働く日々の活力にしている。

 「上海で生まれ育ったので大都市圏での生活は平気なのですが、やっぱり自然に癒されたくなるんですよ。最近も大島や葉山などでキャンプやバーベキューをして友達と遊びました」

 BlackBerryはなくとも自分のワークスタイルを取り戻したというウォンさん。「今は本当に楽しく仕事しています」とさわやかに笑った。

プロフィール
お名前 ジョイ・ウォン
経歴 上海外国語大学にて日本語と経済の学士取得。明治乳業上海支社で乳児用粉ミルク製品の中国導入と事業展開を担当。米エモリー大学にてマーケティングのMBAを取得。その後、米国GSKのグローバル事業開発部に所属。中国の商業分析マネジャーを経て、2006年から日本においてコンタックのブランドマネジャーを務める。
PC ThinkPad、Dynabook、MacBook
携帯電話/PDA(データ通信カードを含む) auの「W42H」。(アメリカで使用していた友達、BlackBerryが恋しいです)
デジタルカメラ リコーの「Caplio R6」
ブラウザ Internet Explorer、Firefox
収集ツール(RSSリーダーなど) 特になし
メールクライアント Lotus Notes
インスタントメッセンジャー Yahoo!Messenger、Skype、GSK社内用インフラシステム「Sametime」
よく使うショートカットキー [Ctrl]+(C/X/V/U/I/O/B)、[Alt]+[Tab]
ファイル整理ツール(デスクトップ検索を含む) ブックマークやフォルダ分けで整理
バックアップツール 特になし
検索サイト Google、Yahoo!(日米のYahoo!を利用)
Webメール Yahoo!(日米のYahoo!を利用)
ブログ 自分自身のブログはないが、友人のブログは頻繁に観覧します
SNS Facebook、Meetup(過去にmixi、Friendsterを利用)
ソーシャルブックマーキング 特になし
Wiki answers.com
影響を受けた人/本/Webサイト 影響を受けた人:GSKコンシューマーヘルスケア国際事業開発部シニアヴァイスプレジデントのCatherine Sohn
最近読んだ書籍:Malcolm Gladwellの「Tipping Point」
座右の銘 「Hope for the best, prepare for the worst」「No pain, no gain」
手帳/ノート ポストイット、月刊スケジュールの印刷。繰り返しになりますが、電子カレンダーが入っていたBlackberryが恋しい
ペン 多色ボールペン
その他小物(ICレコーダ、ポストイットなど) iPod nano、SIIの日英電子辞書

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