新連載の「つい口に出る『微妙』な日本語」が好調だ。そこで日ごろからつい気になっている日本語表現のうち、最も気になる“最も”の使い方について調べてみると――英語との意外な接点が浮かび上がってきた。
2008年03月11日〜2008年03月17日
今回のトップ10は、新連載の「つい口に出る『微妙』な日本語」が最高位と9位に入った。筆者も十年来気になっている日本語について改めて考えてみた。それは記者職に就くはるか前から気になっている“最も”という表現だ。
「最も優れた作曲家の1人」「最も美しい山の1つ」――など、「最も○○な△△の1人/1つ」というコトバをよく耳にする。あなたも実際に、この表現を使ったり耳にしたことがあるだろう。こうした言い回しの背後には、最も〜な人やモノがすでに複数ある、という大前提がある。
またよく似たものに、「最も有名な50人」「最も和む写真100枚」――といった表現がある。こちらもやはり、最も〜な人やモノが複数存在していることになる。
もしかしたらあなたはそうではないかもしれないが、実は筆者は昔からこれらの表現に遭遇するたび、ひどい違和感を覚えてしまうのだ。
というのは、最愛の人は1人。最高位は1位。最低値は1つ。最大面積は1つ――“最も”に当てはまるのは1つだけ。振り返ると、小学校時代まではこうした解釈が当たり前だった。ところが中学に入ると、日本語しかなかった人生に英語という新しい言語が加わり、この認識が崩れる。授業で習った英文法、比較級の中の最上級がその“主犯”だ。
英語の教科書には、「one of the most〜」という表現がよく出てくる。「最も〜な1つ」と訳すから、例えば「one of the most beautiful mountains」といえば、日本語では「最も美しい山の1つ」となる。
しかし現実には、例えばオリンピックの順位を見ても、雑誌やテレビのランキング企画を見ても、最高位は1位だけ。もちろん同点1位ということも時にはある。それでも基本的には最高位は1つしかないわけだから、皆が1位を目指して一生懸命になる。
これこそ最高位が最高位たるゆえんだ。1位が10人もいたら、目指しがいがなくなってしまう。例えば恋愛モノのストーリーに出てくる最愛の恋人は、やはり1人だけ。この場合だって複数の恋人がいたら、話がややこしいではないか。
とはいえ、英語表現に限らず、日本語でも「最も〜な1つ」という言い回しはよく使われているのが現状だ。そこで改めて、国語辞典で「最も」を調べてみると、どの辞書にも、概ね「一番。第一に」といった単語が記されていた。ほら、やっぱり。「最も」は「1番」だった。
辞書の“お墨つき”をもらい、長年感じていた違和感が1人よがりではなかったのだと安堵した矢先――念のため調べた最後の辞書になんと、「極めて。はなはだ」という意味も載っていた……。
辞書名(出版社) | 【最も】の意味 |
---|---|
広辞苑(岩波書店) | 【最も・尤も】(副)(モトモの促音化)第一に優れて。最高に。極めて |
現代国語辞典(新潮社) | 【最も】(副)他のものに比べて、その状態・属性を一番そなえていることを表す。第一に、一番に |
国語辞典(旺文社) | 【最も】(副)いちばん。この上なく。極めて |
大辞泉(小学館) | 【最も】(副)比べてみて程度が他のどれよりもまさることを表す。いちばん。何よりも |
新明晰国語辞典(三省堂) | 【最(も)】(副)程度に関して、同類の中の一方の極にあって、それ以上(以下)のものがない様子 |
大辞林(三省堂) | 【最も】(副)(1)比べたものの中で程度が一番上であることを表す。この上なく。最高に (2)極めて。はなはだ |
「極めて。はなはだ」と、わざわざ別項目を立ててまで言及していたのは、調べた6辞書のうち大辞林1つだけ。ほかの辞書は“認めていない”か“まったく眼中にない”、実にマイナーな意味づけだ。でもよく考えてみると、この「極めて。はなはだ」こそ、「one of the most〜」の意味合いとして、“最も”ふさわしくはないだろうか。
そこで「one of the most〜」がどう記述されているか、英和辞典や英文法の参考書を調べてみた。
辞書または書名(出版社) | 「one of the 最上級〜」の日本語訳、または解釈 |
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ジーニアス英和辞典(大修館書店) | <例文内で>「one of the greatest mine disasters」 (最大の鉱山惨事の1つ) |
コズミカ英和辞典(学研) | 記述なし |
プログレッシブ英和辞典(小学館) | 記述なし |
総合英語Forest(桐原書店) | 記述なし |
よく分かる英文法(学研) | <例文内で>「one of the most famous succer players」 (最も有名なサッカー選手の1人) |
実践ロイヤル英文法(旺文社) | 日本語では「最も〜な1人です」と、極めて不自然に訳されるが、英語ではぎこちないニュアンスはない。日本語に訳すなら「非常に〜」といった程度で、あくまで並一通りではないことを示す言い回し(解説を要約) |
調べた専門文献6冊のうち、半分は触れられておらず、残る3文献のうち2つは「最も〜なうちの1つ」となっていた。しかし、実践ロイヤル英文法によれば、この訳し方は「不自然で」「ぎこちなく」、英語圏では「非常に〜」程度の意味合いでしかないと明記してある。
実際、生きた英語を使っている現地ではどう使われているのだろう――。筆者はさらに、現在ニュージーランドで生活をして10年、「英会話初心者からの大逆転」というWebサイトでリアルな英会話術を披露している小松ヒロシ氏に聞いてみた。
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