「(自然と)思われる」というニュアンスを示すこの言葉。でも、思ってるのはあなただけではないの?
「今回の納期遅延については、やはり営業サイドで謝罪に出向くのが妥当だと思われます。もともと納期に無理があったことに加え、仕様変更の影響も大きかったものと思われます。そもそもお客さまとのコミュニケーションを密にとっていれば納得していただけたものと思われ、この部の人間がわざわざ頭を下げる筋合いはないと思われ……」
イヤな感じですね。理屈はともかく、この言い方は問題です。
ここでちょっと、中学校レベルの国語のおさらいをしてみます。「思われる」の「れる」には「受身」「尊敬」「可能」「自発」の4つの意味があります。それぞれ、
のように使います。1〜4の例文に深い意味はありません、念のため。
先の例に挙げた「思われる」は4と同じく自発、すなわち自然とそうなるというニュアンスで使われています。「営業が謝罪に行くべきだと(私は)思う」という、個人の主観に基づいた意見が、「行くべきだと思われる」すなわち「誰がどう考えても営業が謝罪に行くべき」と、客観的に導かれた結論であるかのようにすり替えられているわけです。「と思われる」は自己保身に走るタイプが好む言い回しと言えそうです。
こういうタイプはへ理屈が達者ですから、「思われる」をちりばめて巧妙に出口をふさいで、自分の望む方向に動くよう相手を操ろうと仕掛けてきます。
しかし、「思われます」を使う人のそうしたもくろみは、長い目で見て効果的と言えるのでしょうか? 答えは否です。
コミュニケーションの研修では、相手に伝わりやすい表現として、I(アイ)メッセージというものを推奨します。これは、I=自分を主語に「私は○○だと思う」「私は○○と感じた」のように表現されたメッセージのことですが、主語がぼやけた「思われます」は、その対極にある言い方です。誰が言っているのかあいまいなメッセージが相手の心に届くでしょうか? わざわざ「思われます」を使うのは、議論を有利に進めるのに効果的なやり方ではありません。むしろ逆効果です。
「えー、今期の営業成績は残念ながら目標に未達でしたが、これは原油価格の高騰により、お客さまの業績が悪化した影響が大きいと思われます」
「ちょっと待て。みんな同じ条件なのに、君だけ特に成績が悪いじゃないか。説明になっていないぞ」
「そ、それは……他社の値引き攻勢も影響があったものと思われ……あと私、今年から六星占術的に大殺界でして……」
「君の努力が足りないだけだろ」
「I=自分」としてのメッセージを発信しなければ、「そういう君はどうなんだ」と突っ込まれるのは当然です。
結局は あなたの主観と 思われます
ヒューマンテック代表取締役。1960年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。トップ営業マンとして活躍する一方で社員教育のノウハウを習得する。1999年に独立。現在はコミュニケーション研修講師として、プレゼンテーション、話し方、マネジメントなどの分野で年間100回以上の講演を行っている。また、Webサイトのプロデュース、システム開発も手がける。著書には『ビジネス快話力』(主婦と生活社)、『みんなのパワーポイント企画・構成・話し方』(エクスナレッジ)などがある。
他人に言われると何だか不快だけど自分でも案外使っている。そんな言い回しを、言われる側の視点で再点検してみませんか?
「もし、アレでしたら」(アレって、何だよ?)
「一応できました」(一応ってどのくらい?)
「誰が悪いとは言わないが」(言ってますけど!)etc.
本書では、あなたの職場で、家庭でよく耳にするフレーズを「こんな人いるいる」と楽しんでいただきつつ、一方で「人のフリ見てわがフリ直せ」という感覚で、表現ひいてはコミュニケーション全体を見直すきっかけにすることを目指しています。
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