第6回 構造化のカギは直線性と対称性新入社員がやってくる──専門知識を教える技術(3/5 ページ)

» 2008年04月04日 10時50分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]

住居用の用途地域を構造化

 資料1を構造化したのが下記のチャートです。低層住居専用地域は左下の水色の領域、中高層住居専用地域はそれより大きな緑色の領域、住居地域は一段と大きなベージュ色の領域、準住居地域はさらに大きな灰色の領域という関係です。準住居地域はもっとも基準の緩い地域ですが、それでもあくまでも「住居」地域ですので、大規模な映画館・劇場や風俗、キャバレー店を建てることはできません。

 まずざっとこの図1と、その元になった資料1を見比べてみてください。そうすると、資料1の書き方の問題点がだんだん見えてきます。

 その問題点とは、第一に「店舗」の大きさの説明が一定していないことです。例えば、以下の2項目を比べてみましょう。

地域分類 概要
第二種中高層住居専用地域 床面積1500平方メートル以下の事務所、飲食店などが建てられる
第一種住居地域 床面積3000平方メートルを超える店舗や事務所を建てられない

 「1500平方メートル以下」の次が「3000平方メートルを超える」なので、「あれ? 3000平方メートル以下はどこいった?」と思いがちですが、良く読むと第一種住居地域の規制は

  • 床面積3000平方メートルを超える店舗や事務所を建てられない

 と書かれています。つまり実はここは「3000平方メートル以下なら建てられる」地域なのです。面積に関する表現パターンが一定していないため、非常に読者を混乱させやすい書き方になっています。

 こうした「表現の一定していない」場所は、ほかにもあります。例えば、

  • 床面積1500平方メートル以下の事務所、飲食店などが建てられる
  • 床面積3000平方メートルを超える店舗や事務所を建てられない

 「事務所、飲食店など」の直後に「店舗や事務所」という表現も出てきていますが、はたして「飲食店など」と「店舗」は同じ意味で使われているのでしょうか? それ以前に「店舗」と「事務所」は違う意味なのでしょうか? 資料1の範囲ではその答えは分かりません。しかし実際に法令の原典にあたって調べてみると、こんなことが分かります。

地域 規制内容の一部 赤字部分の詳しい意味
第二種低層住居専用地域 床面積150平方メートル以内の店舗も建てられます。 日用品販売店、喫茶店、理髪店、建具店等のサービス用店舗のみ。飲食店は含まない。事務所不可。
第一種中高層住居専用地域 床面積500平方メートル以下の店舗などが建てられます。 通常の物販店、飲食店、損保代理店、銀行支店等を含む。事務所不可。
第二種中高層住居専用地域 床面積1500平方メートル以下の事務所、飲食店などが建てられます。 すべての種類の店舗が可。事務所可。ただし2階以下。
第一種住居地域 床面積3000平方メートルを超える店舗や事務所を建てられない地域です。 すべての種類の店舗、事務所可。

 かなり微妙ですね。こうしてみると、前の2つの「店舗」「店舗など」は相当に意味が違う一方で、後ろの2つの「飲食店など」と「店舗」はほとんど同じ意味です。「事務所」と「店舗」ははっきり使い分けているのに、「飲食店」と「店舗」「店舗など」は使い分けているのかいないのかよく分かりません。

 実は、一見簡単そうに見える解説書にはこういう「表現のゆらぎ」が非常に多いのが普通です。簡単に見えるように大まかな概要だけを書こうとして情報量を削減するとよくこういう落とし穴にはまりがちで、かえってわけが分からなくなってしまいます。

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