新メンバーが入っていたとき、どんな仕事をしてもらいますか? チームの仕事内容を教え込むのなら、もう一歩進んで、チームのマニュアルを整備してもらうのも手です。
今回の課題:新しいメンバーの最初の仕事とは?
コツ:マニュアルを整備する
4月に入り、人事異動や新入社員の配属によって新しいメンバーを迎えるチームも少なくないでしょう。チームには、多かれ少なかれチーム独自のローカルルールがあり、これを新しいメンバーにいかに早く身につけてもらうかは常に課題といえます。
ローカルルールには次のようなものがあります。
いずれも、その目的と使い方に習熟しておくことで、個々人が仕事をしやすくなるのはもちろん、チーム全体としても無駄な作業が減り、パフォーマンスが上がるという効果が期待できます。
このようなシーンで不可欠なのが、マニュアルです。チームが持つローカルルールがすべてマニュアルというドキュメントにまとめてあることが理想ですが、現実に対処するために必要に応じて変更が加えられていくローカルルールをすべてフォローするのは容易ではありません。
そこで、新しく入ったメンバーには、既存のマニュアルのアップデート(チームの現実に合わせる)を担当してもらうようにするといいでしょう。既存メンバーにとってマニュアルが整備されることは歓迎すべきことですし、新しいメンバーにとっても、「マニュアルにまとめる」というゴールが設定されることで、単に仕事を理解しながら覚える、ということ以上のやりがいも生まれます。
マニュアル化に当たっては次の3つのステップで進めるといいでしょう。
ひとつひとつ見ていきます。
新しいメンバーが既存メンバーとペアを組み、既存メンバーの作業を記録するステップです。これにより、現実の業務がマニュアル通りに行われているかどうかのチェックができます。そして、既存のマニュアルにはない、現実に対処するために加えられた変更が見つかれば、次のようなやり取りが生まれるでしょう。
新メンバー 「なぜ、このタイミングでクライアントに確認メールを出すんですか?」
既存メンバー 「以前は社内で一通りチェックしてからクライアントに出していたんだけど、そうなるとクライアントが確認できる時間が短くなってしまうから、半分までできたところでいったん確認を取るんだ」
こうした業務上のちょっとした改訂は日々行われているはずです。担当者としては、必要に応じて、あるいは必要に迫られて行っていることですが、時間がたつにつれて、「前回もそうだったから今回もそうする」という前例踏襲の“慣性”が生じます。つまり、そのやり方に問題があったとしても、脱するのが難しくなるのです。
このステップの本来の目的は、新しいメンバーがマニュアル化のために業務の流れを把握することですが、その過程で既存メンバーは新しいメンバーによってチェックを受けることになります。すると、上記のような“慣性”によって覆い隠された問題をあぶり出すことができるわけです。
収集した作業を整理するステップです。具体的には、作業要素を次の3つに分けていきます。
コンテクストとは、作業を行う前提、あるいはタイミングを指します。例えば、「クライアントからオーダーが入ったら」とか「月曜日の10:00に」といった表現になります。
手順とは、文字通り作業を行う段取りを指します。料理のレシピのように、番号を振って作業を行う順番に並べることができるものです。
チェックリストは、手順に沿って行われた作業が業務の目的に沿った形で行われているかどうかを確かめるための“試験紙”です。
収集のステップで集めたマニュアルの要素は、上記3つのいずれかに分類できるはずです。例えば、先ほどの「半分までできたところでクライアントに確認メールを出す」という作業は、「半分までできたところ」というコンテクストと「クライアントに確認メールを出す」という手順に分けられます。そして、「半分まで」という判断基準や、「確認メール」の書き方については、チェックリストの形で外部化できるでしょう。
収集し、整理したものを、マニュアルの形にまとめるステップです。全体をいくつかのフェーズに分けます。いくつかのコンテクストが1つのフェーズを成すでしょう。フェーズを分ける基準は、後戻りできるかどうかです。例えば、次のような具合です。
フェーズ | 内容 |
---|---|
フェーズ1 | ・月曜日の10時以降に前週のデータをダウンロードする ・クライアント向けに一次加工を行う |
フェーズ2 | ・月曜日の12時までにクライアントに確認メールを出す |
フェーズ3 | ・クライアントからの承認を待つ |
フェーズ4 | ・火曜日の10時以降になっても承認がなければ、さらに確認メールを出す |
フェーズ5 | ・クライアントから承認が得られたら二次加工を行う |
例えば、フェーズ2に入ったらフェーズ1には戻れません。また、フェーズ3では「クライアントからの承認」という条件が満たされなければフェーズ4には進めません。このように、フェーズごとにコンテクストと手順をまとめていくわけです。
さらに、フェーズごとにそのフェーズ内の作業結果が想定通りのものになっているかを確かめるためのチェックリストが割り当てられます。こうすることで、問題発生時に原因の特定がフェーズ単位で行えるようになります。問題が発生したということは、どこかのフェーズのチェックリストに漏れがあった、ということになるからです。
今回ご紹介したマニュアル化の3ステップは、新しく入ったメンバーにお願いすることで、オリエンテーションになると同時に、既存メンバーにとっても、外部の視点から仕事を見直すきっかけとなるでしょう。
つまり、今回のコンテクストにおいてはマニュアル化は、目的というより業務を見直すための手段といえます。そして、チームのみならず、個人の立場でも自分の作業をマニュアル化しておくことで、同様のメリットが得られるはずです。
定期的にチーム内で個人のマニュアルを見せ合い、相互に良いところは採り入れるようにするとさらにいいでしょう。
1974年、東京生まれ。ブログ「シゴタノ!仕事を楽しくする研究日誌」主宰。学生時代よりビジネス書を読みあさり、システム手帳の使い方やスケジュール管理の方法、情報整理のノウハウなどの仕事術を実践を通して研究。その後、ソフトウェアエンジニア、テクニカルライター、専門学校講師などを経て、現在は仕事のスピードアップ・効率アップのためのセミナーや研修を手がける。デジタリハリウッド講師。著書に『「手帳ブログ」のススメ』(翔泳社)『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『チームハックス 仕事のパフォーマンスを3倍に上げる技術』『そろそろ本気で継続力をモノにする!』、近著に『Life Hacks PRESS vol.2』『LIVE HACKS! 今を大切にして成果を5倍にする「時間畑の法則」』がある。
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