「明日から目が見えなくなる。見ておきたいものは?」「かつて愛し合った女性が6時間後に東京で結婚式を挙げる。京都にいる所持金500円のあなたはどうする?」――こんなテーマで京都精華大学に通う漫画家の卵たちがブレインストーミングした。
「かつて愛し合った女性が6時間後に東京で結婚式を挙げる。京都にいる所持金500円のあなたはどうする?」――こんなテーマを与えられたら、あなたらならどんなマンガをイメージするだろうか。7月21日、京都精華大学マンガ学部で、行われた講義のワンシーンだ。
講師は、Biz.IDで「アイデア創発の素振り」を連載していた石井力重さん。マンガのアイデア出しでも、連載で触れてきたSCAMPERなどの手法が有効だという。
石井さんに講義を依頼した京都精華大学のさそうあきら准教授(マンガ学部マンガ学科ストーリーマンガコース)は、手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を受賞した『神童』などで知られる漫画家。「アイデアがどのように生まれるのか、科学的な仕組みを知りたかった」と、ネタ出しに苦労してきた体験も踏まえて説明する。
石井さんが最初に紹介したのは、特定のテーマから連想を広げる「マンダラート」。9マスのマス目の中央にテーマを書き込み、その右側のマスから反時計回りに連想を順番に埋めることで、アイデアの切り口を広げる手法だ。アイデアがまったく浮かばない時に、1人でも半ば強制的にアイデアを生み出せる方法である。
アイデアを発想する段階での最も大事な要素は「判断を遅延すること」(石井さん)。アイデアを思いついたとしても、「これは危険なんじゃないか」「面白くない」「平凡だ」と判断を下してしまうことで、発想の障壁が高まってしまう。危険でも面白くなくても平凡でもいい。まずはそうした価値判断を遅らせることで、アイデアを出し尽くすことが重要なのである。
マンダラートのテーマは、さそうさんが考えた「明日から目が見えなくなる。見ておきたいものは?」。学生からは、「スフィンクス」「馬頭星雲」「死体」「冬虫夏草」「病院の中」「下水道」などがあがる。エジプトのスフィンクスはさすがに明日までに見ることはできなさそうだが、これも判断を遅らせておく。3分間ぐらいでどんどん連想するといい。
石井さんのマンダラートには、「子供の顔」「妻の顔」「子供のころのアルバム」「感動的な夕焼け」「オーロラ」「名画」「50年たっても変わらないもの」「日本」とあった。「目が見えなくなるのなら、毎晩眠る前に見ている子供の顔は外せない。同じように愛する家族である妻の顔も見ておきたい。家族であれば自分が子供の頃のアルバムも。アルバムにはきれいな夕焼けがあったなあ。きれいな風景といえば1日では見に行けそうにないけどオーロラも見たい……」というような連想だ。
こうしてできたマンダラートから1つずつの連想をそれぞれテーマにして再びマンダラートを作成すれば、合計64個の連想が広がる。例えば石井さんは「感動的な夕焼け」を選択し、日の入りの逆の発想で「日の出」、太陽といえば月で「満月」、夜見たいものといえば「流れ星」というように連想を広げた。
もちろんこの64個のアイデアはこのままでは思いつきの範囲を出ないから、すべてを採用する必要はない。この中から「ぴかっと光るアイデアを探す。それでいい」のだ。実際この連想の中から石井さんが選んだ「ぴかっと光るアイデア」は「流れ星」と「子供の顔」。ストーリー仕立てにしてみると、こんな感じだ。
例えば「流れ星」、
例えば「子供の顔」、
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