失敗したときに立ち直る方法を知るのだシゴトハッカーズ(4/4 ページ)

» 2008年10月30日 13時53分 公開
[大橋悦夫、佐々木正悟,ITmedia]
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「腹立たしい」時は「忘れる」か「スッキリする」か

 生きていればいやなことは当然ありますし、まして社会人として仕事をしている限り、ストレスを感じさせるアクシデントに、全く無縁でいるというわけにはいきません。

 「ストレスは必ずしも悪ではない」という意見がたくさんあることは承知していますが、個人的見解では、ストレスというものは原則として悪いものだと思っています。特に現代のように、精神にどのような影響を与えるかわからない、真新しい環境に囲まれる時代では、あっという間にストレス過多になってしまう恐れが十分にあると思います。

 そんな状況にあって、ネガティブな出来事をいつまでも覚えていて、精神的苦痛に悶々(もんもん)とするのは耐えがたいことです。できるだけサッサと忘れ去ることができれば、それに越したことはないでしょう。

 その目的で私(佐々木)と大橋さんがやっていることは、一見違うようですが、共通点がいくつかあります。

 共通点とは、「書き出す」というやり方であること。それから、自己完結的なため、火に油を注ぐ結果になる怖れがない点です。腹を立てたなら抗議をしたり、自分の言い分を相手にはっきり伝えることが必要な場合ももちろんあるでしょう。しかしそれは最終手段です。いつもいつもそのような手段に訴えていては、心が休まらなくなってしまいます。

 もちろん同じ「事件について書く」「自己完結的」な方法とは言え、大きな違いもあります。端的にいって私の方法は「忘れること」に主眼あり、大橋さんの方法は「留飲を下げる」ことが目標なのです。

書き留めれば忘れられる、書き出せば疑似体験できる

 まずは私の方法ですが、「忘れる」というのはつまり、脳が「覚えておく努力」を怠れば、自然とそうなるのです。「いやなこと」が忘れがたいのは、「同じ目に遭うことがないように」と脳が「記憶に努める」からです。対談でも述べたとおり、「それなら書きとめてしまうから忘れても問題なし」というメッセージを送ってあげれば、脳は記憶する努力をやめるので、忘れてしまいます。

 どんな事件にせよ、忘れてしまえば、そのことでいやな気持ちになる理由はなくなるのです。

 次に大橋さんの方法は、単に書き出して忘れるだけではなく、疑似体験をすることで「すっとする」という考え方です。腹立たしい思いをさせられた時、当の相手に「メールを出した」という体験を疑似的に得ることによって、「思いのたけをぶつけた」というカタルシスを得るわけです。

 そんな方法で、本当に気持ちがスッキリするのかという疑問を持つ方もいるでしょうが、十分に効果的だと考えられます。

 社会心理学者がよく指摘するとおり、私たちは「演技と現実の区別を忘れる」動物です。恋人との別れの場面で涙している女優さんは、現実に何が起きているわけではないはずでも、本当に悲しくなっているのです。そうした例はいくらでもあります。例えば、実験的に囚人役と看守役に人々を分けて活動させると、囚人役はどんどん精神的に弱っていき、看守役はサディスティックになっていくのです。

 このように、それが単に「演技」や「ふり」なのか、それとも「本当」なのかを、感情的に区別するのは、難しいことなのです。したがって、疑似的に怒りのメールを送ったことにするだけでも、本当に実行した気持ちになって、留飲を下げることもできるわけです。

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筆者:大橋悦夫

大橋
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1974年、東京生まれ。ブログ「シゴタノ!仕事を楽しくする研究日誌」主宰。学生時代よりビジネス書を読みあさり、システム手帳の使い方やスケジュール管理の方法、情報整理のノウハウなどの仕事術を実践を通して研究。その後、ソフトウェアエンジニア、テクニカルライター、専門学校講師などを経て、現在は仕事のスピードアップ・効率アップのためのセミナーや研修を手がける。デジタルハリウッド講師。著書に『「手帳ブログ」のススメ』『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『チームハックス 仕事のパフォーマンスを3倍に上げる技術』『そろそろ本気で継続力をモノにする!』『Life Hacks PRESS vol.2』『LIVE HACKS! 今を大切にして成果を5倍にする「時間畑の法則」』、近著に『成功ハックス』がある。

筆者:佐々木正悟

佐々木
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心理学ジャーナリスト。専門は認知心理学。1973年北海道生まれ。1997年獨協大学卒業後、ドコモサービスに派遣社員として入社。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、2004年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。著書に、『スピードハックス』『チームハックス』のほか『ブレインハックス』『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』『やる気ハックス』などがある。「シゴタノ!−仕事を楽しくする研究日誌」にて「心理ハック」を連載中。ブログ「ライフハックス心理学」主宰。


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